周りの人間しだいで大きくなれる

「人間は、いつも周りにいる5人の平均をとったような人になるものだ」

アメリカの起業家であり自己啓発を手掛けるジム・ローンはそんな風に語っている。心理学にはピグマリオン効果と呼ばれるものがある。たとえば教師の期待の大きさに合わせて学習者の成績が向上するというものだ。つまり、期待が人に与える影響のことで、大きな箱を与えてやればその分成長するが、最初から小さな箱ではそれ以上の成長は見込めない。ここでは、周りにいる人間からの影響という箱によって、自分が決まってくることをいっている。どこに身を置くかで、人間はその大きさが決まる……そういえば、こんな現象を見たことがある。

祭の金魚すくいで金魚をとってきたとき、庭の池ならいいかと思って入れてみたことがある。かわいそうに鯉たちに食べられてしまった金魚もいたが、生き残ったものは鯉かと思うように大きく育っていく。金魚すくいの金魚は20cmほどに成長し、小さな金魚鉢では考えられないような大きさになった。環境次第で成長できるとは、本当に起こりうるものらしい。

この成長は、物理的に大きな池に入れてもらったことも理由のひとつだろう。さらに、鯉と同じ餌を食べていたこともある。なによりも“金魚の周りにいたのは体の大きな鯉だった”ことが、驚くほど大きくなった理由かもしれない。周りに大きなものがあれば「自分のサイズはこれだ」と、勝手に思い込み、周りにあわせるうちに自分の存在もどんどん大きく成長する例なのかもしれない。

さて仕事において、自分はどんな枠組みに身を置き、どんなサイズになりたいのかにあてはめて考えてみる。起業家であり、人を結び付けるプラットフォームをつくったスコット・ディンスモアは、大切なことは「自分を理解することだ」と語る。これは「仕事に情熱を見出す3つの要素」であり、なりたい自分を決める基本でもある。

まず、この「仕事に情熱を見出す3要素」とは、こんなものだ。

「なりたい自分」の基準を見極める

仕事に情熱を見出す要素のひとつは、「自分固有の強みが何か見つけること」にある。たとえば、自分が今までたくさんの時間とお金をついやしてきたものはなんだろうか。かけた時間や労力は、きっと知識や経験に大きく貢献しているはずだ。そう考えると、自ずと一番秀でている部分がわかるだろう。

次に「自分の基準はどこにあるか」だとスコットは語る。それは、自分が気に掛けるのは人間関係か、家族か、健康か、成功か……といったこと。何が一番大切なのかを考えることで、決断の基準が見えてくるだろう。こうして枠組みが決まることによって優先すべきことがわかり、時間を無駄に使わずに済むはずだ。

最後に「経験」を挙げている。自分が好きでがんばったことなど、自分の経験の中から学習し、吸収し、人生に生かしてこそ経験が役立つことになる。

「多くの人が自分にとって何が大切かを知るために、時間をかけていないのは不幸なことです。“そうすべきだ”と、みんなが言っているという理由で、自分にとっては意味のないものを求め続けています。もし一度この枠組みを確立させたなら、自分を生き生きさせるものが何かを見出せます」

先ほどあげられた3つの枠で自分を支えることで、自分にとって意味があり、求めるものが見えてくるものだ。探しているものがわかれば、きっと自分が身を置くべき場所もわかるはず。そして、なりたい自分へとたどり着くために出来る限りの近道を進むためには、こんな方法に行きつくことになる。

仕事と人生の質は、側に置く人で決まる

「最善の方法は、情熱的な人々の中に身を置くこと。無理だと思うことをやり遂げる 1番の早道は、既に成し遂げている人たちの中にいることです」

スポーツ心理学者のノーマン・トリプレットは、競輪選手の集団内と単独での、周回時間を測定。その結果、単独で走るよりも数人と競争して走った方が、常に良いタイムが出ることを証明した。その後、エール大学のエドワード・スクリプチャーがランナーに関して、ピストル音の刺激や自分が走るべきトラックがあるほうが速く走れるといった実験をほどこしている。つまり、周りから刺激があったほうが常により前進できるわけだ。

どこにいるかは自分が決められ、自分でコントロールできるものだ。もう一歩先に進むために刺激を与えてくれる人の中に飛び込むことは、自分を大きくするための近道になる。そして、わざわざ「お前には無理だ」という人、引きずり下ろそうとする人から離れることは、自分の意思で可能なはず。

“なりたい自分”にたどり着くために、どんな形でどのくらいの大きさいになりたいのかを見極めなければならない。これこそが、仕事の生産性を高め、人生のクオリティを上げるための手段だ。

その土台として必要なのが「探し物が何か」を知ることというわけだ。

それを理解しないことには、自分がどこに身を置き、どんな人になりたいかを考えて、目標を導き出すことはできない。そしてうまくいかないときには、もう一度環境を吟味することが大切なのだ。池に入れられた金魚とは違って、私たちには自分の居場所を決める自由がある。池に飛び込むこともできれば、這い上がることだって可能だ。

自分に選択肢がないと思えるときでも、本当はそこにいることを決めているのは自分かもしれない。たとえ勘違いでも、周りにあわせて大きくなれるのであれば、ぜひそこに身を投じたいものだ。これで仕事も人生もクオリティをぐんとアップさせられそうだ。

[脚注・参考資料]
Scott Dinsmore, How to find work you love , TED Sep 2015