演武の動画は500万再生! 金メダル最有力!

高野万優(まひろ)、9歳。

新潟県在住のこの小学3年生の女のコは、「金メダル」の有力候補と言われている。2020年東京五輪の正式種目に採用される可能性が高い、空手。現在、国際大会の出場条件は16歳以上だが、それを14歳に緩和する案が浮上している。五輪の年、14歳になる彼女は出場資格を得ることになる。

実績は十分だ。全日本少年少女空手道選手権(形の部)で3連覇を達成し、ライバルたちを常に圧倒し続けている。また、空手のアンバサダー(広報活動)としてメディアなどで活躍。その知名度と人気度は極めて高い。

その証拠に、幼少時に撮影された彼女の演武の動画(*)の再生回数は、驚異の約500万。小学生らしからぬ身体のキレ、殺気を帯びたオーラは国内外で絶賛され、アパレル商品のコマーシャルや著名な外国のアーティストのミュージックビデオ(**)で「主役」に抜擢された。

「プレジデントファミリー」2016年冬号(発売中)では、そんな「時の人」の日常と稽古、そして公式戦に密着。家庭における愛嬌たっぷりの「小学生の女のコ」が、稽古・試合になると顔つきが文字通り一変し、「空手家」となる様子を、多くの迫力あふれる写真とともにレポートしている。

天才少女の強さのルーツは何か。2年先に空手を始めた兄の存在が彼女に与えた影響とは何かーー。それはぜひ、同誌をお読みいただくことにして、ここでは記事であまり触れていない「親の接し方」をお伝えしよう。

「いつでも空手辞めていいよ」と母が言う理由

天才は、どのように育てられたのか?

ほぼ毎日ある稽古に付き添うのは、父親の泰明さん(34歳)だ。自身は大の格闘技好きだが、空手経験はなかった。それでも、子どもに礼儀作法を学ばせたいと、まだ幼稚園児だった子ども2人と一緒に、近くにある「悠空会」に通ったのだ。

子どもとともに稽古を重ねた泰明さんも今や「黒帯」。万優さんの細かな動きをチェックしてアドバイスしたり、メンタルのケアをしたり。黒子の役割で天才を下支えしている。

一方、母親の正代さん(33歳)も空手経験はない。というより運動系の部活経験がない。どちらかといえば、カルチャー系の人だ。だから、公式戦などは応援にいくが、「空手のこと、よくわからないんです(笑い)」と正直に語る。空手を楽しむ子どもたちを少し離れたところから見守るスタンスをとっている。

「多くの方に、万優のことを褒めていただいたり応援していただいたりして、本当にありがたいです。ただ、あんまり大きな声では言えませんけど、万優には『嫌になったら空手いつ辞めてもいいよ。人生、長いからね』って言うんです」

空手だけが人生じゃないんだよ。そんなクールな発言をすると、万優さんは「やだ、辞めない。私、やる!」とますますやる気になるという。取材して感じたのは、正代さんがあえて空手に没頭する子どもと同じモードにならない、このやり方はおそらく計算ずくだろう、ということだ。

生来の負けず嫌いの性格を逆手にとって、心に火をつける。と同時に、周囲からの期待という「圧力」に負けそうになった際には自分が安全地帯となることで、日ごろは安心して空手に打ち込める環境を作り上げているような印象がある。

万優さんが幼稚園年長の時の全国大会。まさかの1回戦負けを喫し、大泣きする娘を正代さんは一切いたわったり、なだめたりしなかった。いつものようにクールに、こう伝えたそうだ。

「もっともっと練習しないと全国では勝てないんだよね。泣いて、終わりにしちゃダメだよ」

「よく頑張ったよ」とか、「次頑張ればいい」とか、優しく甘い言葉ではなく、客観的に「さらなる練習が必要」という事実を伝えた正代さん。ある意味、傷口に塩をぬるような厳しさだが、それも万優さんの性格を踏まえ冷静に語ったものだった。

天才空手少女がすくすく育った家庭という土壌

天才を天才たらしめるのは、道場の指導者や父親だけではなく、こうした母親の存在感や懐の広さもかなり大きいのではないか。そう言うと、正代さんは笑ってこう返した。

「そんなこと全然ありません。万優が空手やっていて、一番うれしかったのは、私が大好きなオーストラリアの女性シンガー・ソングライター、シーア(Sia)の新曲ミュージックビデオへのオファーが来たこと。それは私にとって『金メダル以上』の快挙なんです。だから、つい『華のあるうちに辞めてもいいよ』なんて言うと、万優は『やる、私、勝つ』って……なるんですけどね」

そんな気取りのなさも、高野家の子どもたちがスクスク育っている理由だと思えるのだ。

前出ビデオのストーリーは、1000年間生き続ける少女(万優さん)が廃墟のような場所でひとり修業を続けているというもの。その動画の中での美しい演武を見た、欧米の映画・音楽の関係者からは「あの女のコは誰だ?」との問い合わせが殺到しているという。

いつも寄り添ってくれる「熱い父」と、一見マイペースでクールだけど「包容力のある母」の、ベストミックスな環境の中、天才少女は2020年、そして2024年へ向けてさらなる進化を遂げようとしている。

(*)https://www.youtube.com/watch?v=65QCHZDXKmA&feature=youtu.be
(**)https://www.youtube.com/watch?v=t2NgsJrrAyM&feature=youtu.be