日本の少子高齢化は皆が思っているよりも急速に進み、特に地方では若者どころか高齢者もいなくなる、と指摘して大きな話題を呼んだ『地方消滅』(中公新書)。その筆者である増田寛也氏が、地方創生の具体的な事例集として上梓した本『地方創生ビジネスの教科書』(文藝春秋)が発売され、若い読者の支持を受けている。地方創生のために今できることとは? 増田氏に話を聞いた。

全国896の市区町村が「消滅可能都市」

――昨年出版された『地方消滅』は、大きな話題を呼びました。少子化は重大な問題ですが、すでに日本はその段階を超えており、本格的な人口減少社会に突入しています。実際に「消滅可能都市」として、全国で896の市区町村が実名で発表されていました。

増田寛也氏(以下敬称略):はい。消滅可能都市とは、人口の再生産を担う20歳から39歳の女性の人口が、2040年までに5割以下に減少すると試算されている自治体のことで、日本全国の約半分にあたります。人口減少の原因は2つあります。1つは、95%の子どもを出産する20~30代の女性が減っていること。そしてもう1つが、地方で子どもが生まれても若者は東京に集中してしまうが、東京は結婚して子どもを生み育てるのに必ずしも望ましい環境ではなく、結果として子どもが生まれないということです。地方から若者を吸い込む東京では、人口は再生産されない。地方が消滅し、人口は減っていく。地方だけではなく、東京も危ないのです。

――そうした問題提起をされた『地方消滅』に対して、今回発売された『地方創生ビジネスの教科書』では、地方で活躍する若い人たち、新しいビジネスモデルや成功事例をたくさん紹介しています。この2冊はどういう関係にありますか。

『地方消滅』で問題提起したことに対して、『地方創生ビジネスの教科書』で答えを提示した……という関係です。“優秀な人は東京へ行き、地方には公共事業しかないから仕事が見つからない”というのはステレオタイプだと思うんです。若い人にとって、大企業に行くことがベストの選択ではない、ということを感じてもらえたらうれしい。地方には無限に資源がある。自己実現の選択肢を広げてほしいです。

――確かに『地方創生ビジネスの教科書』は、若い人が読んで面白い本ですね。

20~30代の人に読んでほしいですね。新しいビジネスを起こすヒントが詰まっていますから。この本には「よそ者」「馬鹿者」「若者」が出てきます。よその地域からやってくる人、若い人、そして馬力がある人が、変化を起こしていくんです。

「普通の自治体」は町おこしのために何をしたらいいのか

――この本にはたくさんの村おこし、町おこしの具体的な事例が出ていて面白いのですが、一方でこれを読んだ人は「この本に出てくるようなところと違って、自分たちの町や村はすごく普通だ。うちでは無理だ」と思うのではないでしょうか。特色がない、普通の地域にもできるコツはありますか。

「自分たちの地域じゃ無理だ」と思う人ほど、外の人を連れてきて、部外者の目で見てもらうべきなんです。有識者じゃなく、無名の人でいい。外の人に診断してもらってください。実際、ほとんどの人たちは「うちは普通の地域だから、とても無理だ」と思っているものなんですよ。大事なのは、うまくいかなくても粘り強く続けること。1人連れてきてだめだったら次の人を、それでもダメだったら他の人を連れてきて、外の目で見てもらう。1000やって、2、3個当たればラッキー。原石はなかなか見つからないし、磨き上げるのもとても大変です。それくらいの粘り強さで取り組む必要があります。

和歌山県北原市の「じゃばら」などはまさに「うちには特色なんかない」と思っていた自治体の例です。また、「みがきイチゴ」も1次産業の例ですが、これは被災地でたくさんのものを失って下を向いていた人たちが新しい産業で元気になっていく話です。あと、山形の「スパイバー」はハイテクでこれからの可能性が大きく広がる事例で、大化けするんじゃないかと思っているのです。若い人たちが中心になった取り組みが花咲いている事例は非常にいいなあと思いますね。もう1つの特徴は、イチゴのような1次産業による地域おこしの例を含め、ほとんどの事例でITがキーになっていること。若い人たちはやはりITリテラシーが高いからだと思うのですが、それまでの常識では想像がつかないような、若い起業家が出てきています。

――地方自治体は「(税金を)使う」という文化で、この本に出てくるような「ビジネスをする、稼ぐ」という意識があるところは非常に少ないと思います。また、「平等にしなくては」という意識も強くなりがちで、これも事業を成功させるためにはマイナスですよね。自治体の意識が「稼ごう、ビジネスを成功させよう」という風に変わるのは、どういうターニングポイントなのでしょうか?

中途半端に税収がある自治体は、どうしても「使う文化」になってしまいます。破産した夕張などがまさにそうですが、追い詰められることが最大のきっかけでしょう。あとは民間出身で飛び抜けた首長、若い優秀な首長が生まれたとき。「これまでのやりかたはおかしい」と首長が思うのでしょう、そういうときはターニングポイントになりやすい。

平等意識はやはり強いですよね。もちろん公平原則を働かなくてはならないときもありますが、観光協会や農協といった公的な団体は、みんなを平等に扱おうとする結果、没個性になってしまう。例えば農作物をブランド化して高く売ろうといった場合はこれはマイナスですよね。本来、努力をしているところに果実は落ちるべきです。観光協会もそうです。地域内に飲食店がたくさんあるがどれも平等に同じ扱い……というようだとためになりません。観光協会などのような存在は、公的な存在にせずに切り離してしまうこと、従来のステークホルダーをどこかで淘汰すること、そういったことをトップが決めることが大事です。これはやはり、追い詰められないと難しい。

移民・難民受け入れの可能性

――少し話が変わりますが、最近シリア難民やリビア難民の問題が世界的に注目されており、日本では受け入れなくていいのかと考える人も出てきました。地方の人口を増やし、人口減少を食い止めるという目的で、移民や難民を受け入れることは難しいのでしょうか。

そうですね。人口を増やすという目的のためには、移民や事実婚という選択肢もあります。移民……というより、異文化ですね。長い目で見たときに、日本にはもっとたくさん外国人を入れて文化を多様化させていく必要がある。個人的にはそう考えています。現在も技能研修などで少しずつ外国人を受け入れていますが、単に外国人をこき使うための制度となっていることも多いです。あれだと、みんな反日になって帰って行ってしまう。技能研修よりももっと枠を広げて、外国人をたくさん受け入れて気持ちよく働いてもらう、そういう制度を整備する必要はあるでしょう。ただ、中国、フィリピン、マレーシアといった、移民を出す可能性がある国の事情から考えると、日本に魅力を感じなくて、日本に来たがる人はあまりいないのではないかと考えています。となると、移民という枠だと難しいでしょう。

難民の問題は、シリアやリビアの人たちがいまの国にいるよりはもちろん日本に来たほうがいいと思いますが、いかんせん遠いのと、文化が違う、(ヨーロッパに比べ)頼る人や仲間がいないという理由で難しいのでしょうね。ただ、アジアにも難民はいるわけです。ミャンマー難民はすでに日本に来ていますが、日本は移民や難民に対する壁が非常に高くてほとんど受け入れていません。しかし日本の文化を多様化させるためにも、こうしたアジアの難民は今後受け入れていかなければいけないのではないでしょうか。

Iターン、Uターンする若者が起爆剤になる

――「地方から東京に出てきたが、出身地に戻るかどうか迷っている」「東京出身だが、地方で自分が役に立つなら暮らしてみたい」という若い人は少なくないと思います。いまは東京にいるが、地方へ行ってみたい、迷っているという人に対して、何かメッセージをお願いします。

地方では、若い現役世代が主体的に活躍できる場が広がっています。東京で身につけたITリテラシーやビジネス経験を生かして、Iターン、Uターン組としてぜひとも起爆剤になってほしいですね。地方では高齢化が進んで人手不足なうえ、停滞を打ち破ってくれる、若い人ならではの新しい視点を求めています。

もちろん、地元に溶け込む努力は必要ですし、東京で働いている頃に比べて、収入が下がるかもしれません。けれども、東京ほど家賃は高くないし、地元の美味しい旬の食べものが安く手に入るため、生活費もそれほどかからない。子どもも東京より育てやすいです。満員電車での通勤によって、時間を奪われたり疲弊することもありません。地方のほうが、より人間らしい生活が送れます。また、自分の仕事が地元コミュニティに貢献しているという手応えを直に感じられるのも、地方創生ビジネスならではの醍醐味。ですから、やる気のある若い現役世代の方には、是非とも地方での仕事に挑戦してみてほしいですね。

『地方創生ビジネスの教科書』増田寛也(文藝春秋) 「新書大賞2015」1位に輝く『地方消滅』著者にして、「日本創成会議」座長を務める地方問題の第一人者、増田寛也氏による究極の“解決篇”。日本各地に眠る宝の資源を発掘し、磨き、売り込み、稼ぐには? 地方に魅力的な仕事を生むことで、人が集まり、街がつくられ、次世代へもつながる。本書では、「地方創生ビジネス」10の事例を紹介。鍵を握るI&Uターン、地方ならではのIT活用、人づくり・場づくり、補助金からの自立、日本一の売り場へ並べる方法、農協との共存作法、小ささを逆手に取る方法など「成功の極意」を惜しみなく伝える。