評判の芳しくない宰相は、「日本経済は全治3年」といった。漢字の誤読はともかくとして、景気の回復には5年かかるとの異論もある。国内における企業の経営統合をはじめとする再編にも拍車がかかっている。では、世界的な視野では日本企業の実情はどう捉えられているか。

世界中の投資ファンドを顧客に持つ野村証券のファイナンシャル・スポンサー部長、住野豪生氏は、こう解説する。

「円高を背景に、日本ではとくに食品、薬品の企業が積極的な企業買収を進めています。また、日本は金融機関もマーケットも世界の中では相対的に健全で、海外の機関投資家から注目されています」

今後は、日本企業が海峡を越えて合併に乗り出したり、逆に買収の波にさらされたりする機会もさらに増えるらしい。米国では自動車メーカーが3社に集約されているのに対し、日本では大手6社が連なる。家電メーカーが多いことは、海外だけでなく日本国内でも疑問視されている。そして、未曾有(みぞう)の少子高齢社会。住野氏は、「いまの日本のマーケットを前提に成長の絵を描くのは難しい」と語りつつ、日本企業の美点と課題を挙げる。

「企業文化の共有、従業員の一体感、顧客の信頼など、経営や雇用に対する長期的なコミットメントを重視する日本には、海外の投資家の期待値も高い。ただし、どの程度の時間軸でやるかが、まだ世界のスタンダードとは開きがあるので、スピード感を少し早める必要があります」

転職未経験なのに「4社目」という激変

大企業からベンチャーまでが鎬しのぎを削り、生存競争の著しい通信業界にあって、某社の営業セクションで課長職にある40歳のA氏は、一度も転職を経験していないにもかかわらず、勤務先の合併が度重なり、現在の会社は4社目となっている。住野氏の指摘を裏書きするように、「時間軸が早まりましたね」と苦笑する。

「最初の会社に就職したとき、サラリーマンは30年かけて花開くと思っていた。それが、社内も業界全体も、めまぐるしく変わるようになった。こんなはずじゃなかったのに、という思いがあります」

合併に伴って、給料やボーナスが減り、やる気が萎えた。そうかと思えば、賃金体系統一という名のもと、逆に年収が増えたこともある。組織変更と人事異動が頻繁になり、新しい部署や未経験の仕事に馴染めずに辞めていく人も少なくない。

「プライドが高い人や待遇に不満のある人だけでなく、コネで入社した、いけ好かないボンボンも、だんだん辞めていきました。サラリーマンとして生き残りがかかっているのだから、未知の仕事ではあっても、不平をいわずに努力するのは当然です。僕は、いろんな部署を経験することで、サラリーマンとしての武器が増えていくと考えるようになりました」

A氏の表情は、むしろ明るい。

社内の飲み会では、「どこの出身?」と元々お互いがいた会社を訊ねるのが挨拶がわりになった。やがて、「いま辞めるのは不利だよね」と意見が一致する。経費の削減が徹底され、交通費も前例の踏襲(とうしゅう)は通用せず、全面的に見直せと上司がうるさい。辟易するが、出張には夜行バスしか認めない会社もあると知り、自分は新幹線に乗れるだけましだと思う。社外の人とも積極的につきあって視野を広げ、負の思考に陥らぬように心がける。A氏は、「楽しまなきゃね」と笑った。

人間到るところ青山(せいざん)あり。サラリーマンにとって、会社もまた青山である。