企業のニーズに合う学生を養成する大学が台頭。旧来の伝統校や偏差値上位校に有利だった就職戦線地図が、塗り替えられつつある。ソフトバンク、三菱重工、日本HPの採用責任者は、学生に何を求めているか。

なぜ、偏差値50台のAPUの評価が高いか

「(立命館アジア太平洋大学から)2012年は6人の内定者を出しました。事務系の採用数は毎年100人弱ですが、6人というのは大学別の採用数ではもちろん(東大などを抜き)トップです」

三菱重工業の原田庸一郎人事部次長はこう語る。

大分空港からリムジンバスで30分。別府市内に着くと再び乗り換えたバスに揺られながら山道を登っていく。日光のいろは坂のように険しい坂道を蛇行しながら進むこと15分。別府湾と市街を見下ろす頂上付近に立命館アジア太平洋大学(APU)のキャンパスがあった。

2000年に開学。地上と隔絶されたこの辺境の地で約5800人の学生が学ぶ。しかも約半数を世界83カ国・地域の外国人留学生が占めるという文字通り日本屈指の国際大学である。しかし、それだけではない。開学10年余にして卒業生の多くが超難関企業に就職。旧来の伝統校や偏差値上位校に有利な就職戦線地図を大きく塗り替えようとしている。

冒頭の三菱重工もその1社である。三菱重工といえば1990年代から2000年代初頭にかけて東大、京大をはじめとする旧帝大や早慶の学生(技術系含む)を2桁単位で採用し、文系大学では一橋大学出身者を最も多く採用していた(大学通信調査)。その同社の事務系採用でA PUがトップに立ったということは一橋大学を抜いたことを意味する。

三菱重工だけではない。11年度の就職先には、新日本製鉄、神戸製鋼、旭化成、小松製作所、住友化学、ソニー、東芝、野村証券、三井住友銀行、三菱商事、丸紅、武田薬品工業、電通、博報堂といった一流企業がずらりと並ぶ。APUの就職率は95.1%であるが、難関の一部上場企業への就職率は約36%を誇る。ちなみに一部上場企業への就職率を開示している大学は少ないが、慶應義塾大学が約43%だ。慶應の入学偏差値は65~70であるのに対し、APUは50~55。偏差値を超えたAPUの人気ぶりが際立つ。

APUの村田陽一事務局次長(学生支援・就職支援担当)は「超難関企業の内定者を見ると、たとえばパナソニックや東芝など製造業では理系学生の採用数が多く、文系はせいぜい40人、50人ぐらいですが、旧帝大や早慶しかいないところにAPUがポツンと入っている。あるいは三菱重工さんのように多く採用してくれるところもある。富士通さんも毎年4~5人採用してくれています」と語る。留学生は学内選考で8割が決まるというが、13年3月卒業生は、12年7月時点で「ほぼ完売状態。就職希望の留学生の内定がほぼ出揃った」(村田事務局次長)という。

なぜ、APUの人気が高いのか。言うまでもなく日本企業が渇望するグローバル人材の資質に優れているからだ。三菱重工の原田人事部次長はAPUの魅力をこう語る。

「1つは中国や韓国に限らず、アジアやヨーロッパを含めて幅広い国や地域の学生が集まり、特定の国に偏らない多様な人材が豊富であることです。2番目は日本語教育にも力を入れ、外国人の日本語レベルが非常に高い。3番目は市街から離れた修学環境に適した立地にあり、実際に非常に勉強しておられる。4番目はキャリア支援の事務局と学生との連携が非常に密であり、日本企業への就職に力を入れていることです」

グローバル人材の資質が異文化リテラシーにあるとすれば、APUは「日本人と留学生が授業や課外活動を含めて交わり合うような仕組みや仕掛けを長年つくり続けてきた」(村田事務局次長)。その1つが留学生と日本人学生が共同生活をおくる学生寮だ。個室と2人部屋があるが日本人は外国人との同居が必須であり、互いの文化を理解し合えなければ一緒に暮らすことはできない。

「国際交流という言葉は美しいのですが、現場では全然美しくない。時には対立も起こります。たとえば『時間にルーズだし、自己主張だけはしやがって』というのが日本人が抱く最初の感覚です。しかし、留学生は国によって悪気がないのに時間の感覚がルーズで約束を守らない人もおり、そこにコンフリクトが起こる。あるいは授業で4人のチームでプレゼンするとなると、日本人2人に細かい準備だけをさせて、留学生の2人がプレゼンのいいところだけを持っていこうとする。『なんだ、このやろう』と思うんですが、それを乗り越えて互いにどうすれば一緒に協力できるのか、相手を巻き込むにはどうすればいいのかを考えないと前に進まない。そうした人種や国境のカベを乗り越える経験をたくさんすることで日本人も一皮むけていく。企業の担当者もそういう点を非常に重視しています」(村田事務局次長)

異文化受容力に加えて積極的な海外志向も企業の評価が高い。APUには交換留学生制度があるが、TOEFL550点以上とハードルが高く留学できるのは1学年の2割程度。しかしそれでも海外渡航の夢がやみがたく1年間休学してワーキングホリデーを利用して海外体験する学生が約4割もいる。現地で揉まれて培うコミュニケーション力も企業の魅力の1つだ。

「旧帝大の学生など最近はTOEICが800点というのは珍しくありませんが、APUの学生は700点だったりする。でも皆、海外経験を持っている。採用面接で、海外で働けますかと聞かれて、途上国は勘弁してほしいという学生もいるそうですが、自ら手を挙げて『どこでもいいから行かせてほしい』というのがうちの学生の特徴です。企業の側もうちの学生にはどれだけ英語ができるのか、はっきり言ってあまり求めていない。それよりも、いろいろな人とどんな環境であってもきちんとコミュニケーションできる能力を買われていると思います」(村田事務局次長)

高い異文化受容力、海外志向、国境を越えたコミュニケーション力。これが企業が求めるグローバル人材のポテンシャルであるとすれば、APUは明らかに企業のニーズを踏まえた教育を実践している。

日本の大学は、旧来型のマスプロ教育を漫然と実施するばかりで、企業が求める人材ニーズに応える教育を怠ってきた。企業もそのことをよく知っているために、大学の入試偏差値に過度に依存し、入学後の成績は採用選考の参考にしないという日本独特の風潮が長らく続いてきた。しかし、本当に欲しい人材を育成すれば、偏差値は低くても企業が採用することをAPUは実証した。

APUに限らない。04年に開学した秋田県の公立大学である国際教養大学も100%の就職率を誇る。1学年の定員は150人と少ないが、グローバル人材の養成という明確な育成ビジョンを掲げ、英語のみで授業を行うほか、1年間の海外留学を義務づけるなど従来の日本の大学にない特色を持つ。

1クラス15人以下を基準とする授業は、ディスカッションやディベート、プレゼンテーションへの参加を通じて自ら考え、主張できる能力を養う。さらに教員1人あたりの学生数は約10人と小学校の分校並み。教員の半数を外国人が占めるが、3年間の任期制であり、教員は専門の研究分野ではなく「教育力」で評価されるという徹底した教育重視の大学だ。

国際教養大学を訪問し、2人の学生を採用した大手石油会社の人事担当者は「全員が海外の大学に留学し、現地の学生と机を並べ、正規科目を30単位取得するらしい。留学前はTOEICが800点でも帰国後は全員が900点を超えるという。それだけ海外で揉まれてきた証拠であり、自分も若ければぜひこういう大学に行きたかった」と絶賛する。

人事部が注目する大学・学部

1.立命館アジア太平洋大学(2000年開学)

中国・韓国だけではなく、世界80カ国以上の優秀な留学生が学び、日本語教育に注力し、日本語のレベルが非常に高い。学生の半数を占める日本人学生は講義と大学寮での外国人との生活に揉まれ、グローバル人材の素養を身につけている。

2.国際教養大学(2004年開学)

教員の半数を外国人が占め、すべての授業を英語で実施。1年間の海外留学を義務づけ、留学先大学で約30単位を取得。帰国後のTOEICは900点以上。少人数授業とグローバル人材に必要なリベラルアーツ教育に注力。

3.早稲田大学 国際教養学部(2004年開設)

英語による徹底した授業に加え、約3割の外国人留学生との交流、2年次後半からの1年間の海外留学を通じてグローバル素養を修得している。大規模講義のイメージの強い早稲田大学にあって1クラス約25人と少人数形式の授業。

4.国際大学 国際経営学研究科(1988年開設)

日本初の100%英語によるMBAプログラムを導入した大学院。全寮制を原則に50カ国以上から集まる学生と教員が多文化・多国籍の環境下で学ぶ。グローバル・リーダーの養成を目的とした実践形式の授業に注力。

5.慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス・SFC(1990年開設)

総合政策学部・環境情報学部の文理融合で、両学部の授業を学生自ら自由に組んで受講できる。カリキュラムの中核となる100近くの多様な研究プロジェクトに所属し、自主性・創造性を磨いている。

6.立教大学経営学部(2006年開設)

産学協同の少人数プロジェクトによるビジネス課題解決の実践的学習を1年次から3年次まで繰り返す。そこで培われるプレゼンテーション力やコミュニケーションスキル、チームワーク力は即戦力として魅力的。

7.金沢工業大学(1965年開学)

1週間単位で知識や技術の達成度を評価しながら能力の向上を図るポートフォリオシステムを採用。修学アドバイザー(クラス担任)による個人別指導の評価は高い。卒業後のキャリア像を考えさせるための職業指導を徹底する。

8.豊田工業大学(1981年開学)

1年次全寮制教育と徹底した少人数形式による授業で工学系の基礎的能力への評価が高い。産業界と連携した「産学就業力向上委員会」を設置。アカデミックアドバイザー(教員)と事務局が一体となって第一志望企業への就職を目指している。