「女性ならではの目線で……」などとよく言われるが、はたして本当に男女に目線の差はあるのだろうか。ただの個人差では? 根拠を探ってみた。

同じ「見つめる」でも、男女で意味が違う

女性が開発したヒット商品は、今や珍しいものではなくなっている。

最近の身近なところで挙げるなら、エコの発想を取り入れたミネラルウオーター「い・ろ・は・す」、ノンアルコールビールのブームをつくった「キリンフリー」などが思い浮かぶ。駅ナカの先駆となったJR東日本の「エキュート」も、女性がプロジェクトリーダーを務めたことで有名だ。

女性が生み出した商品は、既存のものや事柄に新たな価値をつけ加えているのが特徴といわれるが、男性と女性のアイデア力はどこで差が出るのだろうか。

日本大学芸術学部の教授で、国際パフォーマンス研究所所長の佐藤綾子さんは、男女の間には、文字通り、「目のつけどころ」に違いがあるという。

「情報を獲得するとき、大きなウエートを占めるのは視覚情報です。たとえば、誰かと話す際、言語から受け取る情報量はわずか30%にしかすぎません。残り70%は、相手の表情、洋服の色などで、多くは目から情報を得ているのです。視覚から得る情報量は1秒間に1万要素に及び、このうち、4000要素を脳が処理できるという研究報告もあるほど。ただし、この同じ『見る』でも、視点に男女差があることが私の実験研究からわかっています」

そこで注目していただきたいのが、図2のグラフだ。これはEPPSという人間の行動を決める15の欲求の強さの度合いを調べる心理テストで、「見つめる」という行為からその人が何を欲求しているかを調べたもの。同じ「見つめる」でも、男性は顕示欲求と変化欲求が抜きん出て強く、女性は異性愛欲求と養護欲求が強いのがわかる。

「人間の行動を決めるのは、欲求です。この結果からすると、男性は自分を認めてほしいという感情や、変化を求めてものを見る傾向がある。従来にない革新的な新商品を生み出したり、ベンチャービジネスの起業家に比較的、男性が多いのはそのためでしょう。対して、女性は異性愛欲求にしても養護欲求にしても、人との関わりを重視して物事を捉える傾向がうかがわれます。今の生活をもっと便利にしてあげたい、もっと楽しくしてあげたい、という発想で商品開発をするのが女性の特性というわけです」

細かな表情を女は見逃さない

さらに、この「見る」ことにおける男女差として、佐藤さんから挙がったのは表情読み取り能力だ。日常生活でもビジネスでも、相手の顔色をうかがう場面はよくあるが、微細な表情まで見逃さないのは圧倒的に女性だという。

「微細な表情とは学術的には微表情(マイクロ・エクスプレッション)と呼び、まばたき、眼球の動き、口角の小さな上下などが該当します。この微表情が現れるのは、口を開けて笑ったり、目を丸めて驚いたりといった大きな表情に移る前のほんの一瞬。0.5秒ぐらいの間です。大きな表情の変化は意図的にコントロールできますが、微表情は統制が利きません。つまり、この一瞬の小さな表情でその人の本音がわかるというわけです」

具体的にいうなら、「結婚おめでとう」と笑顔になるその直前に微妙に口角が下がれば、嫉妬やねたみが心の内にある証拠。「明日の会議の資料はバッチリできています」と言った瞬間、眼球が泳げば、まだ仕上がっていない可能性が大となる。このわずかな表情を読み取れるか読み取れないか、これが肝となる。

佐藤さんはこの微表情の読み取り能力を調べるために、52パターンの微表情を2秒ずつ撮影したビデオを見せて、感情を推定するという実験を実施。結果、正答率は、女性が男性を大きく上回ったというのである。

「女性がこの能力に長けている理由は定かではないのですが、一説には小さいころから鏡で自分の顔を見る機会が多いため、と言われています。確かに、女の子はお化粧のまねごとをしたり、髪飾りをつけてみたりとよく鏡の前に立ちますよね。もっとも、大人になってしまった男性でも、訓練すれば微表情を読み取れるようになりますよ。そのためには、まず、人の表情に関心をもつことが大切になりますけれどね」

この微表情の読み取り能力が効力を発揮するのは、プレゼンや商談の場面だろう。言うまでもないが、プレゼンや商談において何よりも大切なのは場の空気を読むことだ。相手の反応次第で、臨機応変な対応が欠かせない。

たとえば、新商品に対して「ほう、面白いですね」と言いながらも、一瞬、相手の口角が下がれば、本音では興味がないか、早く終わらせたいと思っているか。当然、話の進め方も変わってくるだろう。

反対に最悪なのは、相手の表情も時間もおかまいなしに、延々自分のペースでしゃべり続けること。結婚式のスピーチによく見受けられるが、こういう空気の読めない話し方をするのは、確かに女性より男性が多い。

男は「ロジカル」に、女は「感情」に訴える

プレゼンにおけるパフォーマンスについては、「見る」ことのほかにも、明確な男女差があると佐藤さんはいう。

「女性は、かわいい、きれいといった叙情的な言葉がけをされて育ったためか、スピーチも感情主体になる傾向があります。一方、好奇心で物事を突き詰めていく習性のある男性は、プレゼンのスピーチも論理性が強くなりやすい。パフォーマンス学では、『感情プレゼン』と『ロジカルプレゼン』と呼び分けています」

この男女の違いをうまく生かしたのが、今年9月に行われた東京五輪招致の最終プレゼンだ。高円宮妃久子様や滝川クリステルさんをはじめ女性陣は、自身の体験や話題となった「お・も・て・な・し」の言葉で感情に訴えかけるスピーチをしたのに対して、男性は猪瀬東京都知事らが予算、施設や交通網の整備といった具体的な内容を語るロジカルプレゼンに終始している。

フェンシングの太田選手にしても、一見、感情プレゼンのようだが、映像を交えて日本の先端技術を誇示しているところは、紛れもなくロジカルプレゼンなのだとか。

すなわち、女性の特性を生かした感情プレゼンと、男性ならではのロジカルプレゼンをバランスよく組み合わせた編成が功を奏したというわけだ。このプレゼンの組み立て方は、企業でも参考になりそうである。

ならば、トリに登場した安倍首相のスピーチはパフォーマンス学的にはどう評価されるのだろう。

「安倍首相の場合、冒頭で福島の汚染水問題に言及するなどロジカルプレゼンを行いながらも、かつての東京五輪の思い出や、オリンピックによって大学時代にアーチェリーを始めたというような感情プレゼンも上手に取り入れています。また、汚染水に関して『完全に制御されている』と語ったときの、両手を水平にして抑えるジェスチャーも言葉を補う意味ではお見事。感情プレゼンとロジカルプレゼンの両方を押さえた、パーフェクトなスピーチでしたね」

2020年の東京五輪を手中に収めた一国の首相の名スピーチ、じっくり見直して、ビジネスのお手本にしてみてはどうだろう。

(※図版出所=『自分をどう表現するか パフォーマンス学入門』(講談社現代新書)佐藤綾子著より)