「手本を見せず丸投げ」はダメ

前回(http://president.jp/articles/-/10021)、ワーク・エンゲイジメントの高い人はストレスが低くなる一方、仕事の満足度やパフォーマンスは向上すると述べました。では、ワーク・エンゲイジメントを高めるにはどうすればよいか。それには二つの資源を豊かにすることが大切です。すなわち、個人の内部にある「個人の資源」と、仕事や職場、組織に関連する「仕事の資源」。これらを高めることがワーク・エンゲイジメントを高めるカギになります。

個人の資源としては自己効力感や楽観主義、レジリエンス(困難な状況でも適応できる力)などが、仕事の資源には仕事の裁量権や職場のよい雰囲気、仕事で成長できる機会などが挙げられます。あなたが部下を持つ上司であれば、これらの資源を高めることが部門やチームの活性化につながっていきます。

自己効力感を提唱した心理学者、アルバート・バンデューラは「自己効力感を高めるためのいくつかの源泉が存在する」と指摘しており、その中の一つに「よいモデルを見ること」があります。よいモデルが存在しないと「あんな風に仕事をするとこんな成果が得られる」という先行きが見えず、不安になってやる気が起きず自信も持てないという結果に陥ってしまうのです。その意味で、部下に手本を見せず仕事を丸投げするようでは、よい上司とは言えません。

「なぜこの仕事を任せるのか」をしっかり部下に伝えることや成功体験を積ませること、ポジティブなフィードバックを与えることも自己効力感の向上に寄与します。

「一所懸命」より「何を目指すか」

一方、仕事の資源を高めるにはどうすればよいか。仕事の資源は個人、部署やチーム、組織全体の三層構造に分類され、どの層にどんな仕事の資源が存在するかをアセスメントした上で、どの資源を充実させていけば職場全体のワーク・エンゲイジメントの向上につながるかを検討していくことが重要です。

何より上司に求められるのは、表面的に部下の仕事ぶりを見て「一所懸命だな」と満足するのでなく、面談等で「なぜ一所懸命働くのか」「何を目指して仕事をしているのか」といった話を深掘りしていくことです。

前回ご説明したようにワーカホリックとワーク・エンゲイジメントの高い状態は似て非なるもので、不安を解消するために一生懸命仕事をしている人のパフォーマンスは上がりません。仕事自体が楽しいから、仕事に意味があるから一生懸命働く、という考え方に方向付けていくことが部下のパフォーマンス向上につながるのです。

島津明人(しまず・あきひと)
東京大学大学院医学研究科准教授
1969年、福井県福井市生まれ。早稲田大学第一文学部、同大学院文学研究科卒業後、ユトレヒト大学社会科学部客員研究員などを経て、2007年より現職。「ワーク・エンゲイジメント」「ストレス対策」「ワーク・ライフ・バランス」をテーマに、企業組織における人々の活性化・メンタルヘルスを研究している。精神保健学、産業保健心理学。共著・単著に、『ワーク・エンゲイジメント入門』(星和書店)、『自分でできるストレス・マネジメント』(培風館)、『じょうずなストレス対処のためのトレーニングブック』(法研)等。