欲しがる人は貧しい人、富裕層に最も遠い人

では、このヘドニックトレッドミルが指摘する「際限のない消費」はどのように止めればいいのでしょうか。

京都・龍安寺に「知足のつくばい」という手水鉢があります。水溜めの中心の正方形の周りには五・隹・疋・矢という文字が配列されていますが、中心の正方形を口と見れば「吾唯知足」となります。(写真)

漢文の勉強を思い出してほしいのですが、時計回りによんで吾唯足知ではなく、上から下に吾唯知足と読むため、「知足のつくばい」です。読み方としては、「吾唯足ることを知る」になります。

龍安寺は臨済宗の寺ですから、釈迦の教えにこの言葉は由来します。釈迦が亡くなる前に残した教えを伝える「遺教経」(ゆいきょうぎょう)には、次のような言葉があります。

知足之人雖臥地上猶為安樂。(足ることを知るひとは地面に寝るような暮らしでも安楽だ)
不知足者雖處天堂亦不稱意。(足ることを知らないものは豪邸にいてまだ満足がいかない)
不知足者雖富而貧。(足ることを知らないものは豊かであっても貧しい)
知足之人雖貧而富。(足ることを知る人は貧しくても豊かである)

世界で最も貧しい大統領ムヒカの「貧しい人とは、何も無い人ではなく欲しがる人」という言葉もまた「遺教経」に由来します。

では、具体的に「足ることを知る」にはどのような方法があるのでしょうか。

リュボミアスキー教授は人生に起こる「いいこと」を当たり前のように思わないなら、感謝をすることで「快楽順応」の影響にも抗うことができると述べています。そして、週に1度、感謝していることを3~5個日記につける感謝日記の幸福介入の実験が幸福度を高めるうえで最も効果的だったと述べています。

また、ペンシルベニア大学心理学部教授でポジティブ心理学の父のマーティン・セリグマンは一度もきちんとお礼を言ったことがない人で、来週にでも直接会える人に直接感謝の手紙を届けてその場で読み上げる「感謝の訪問」という幸福介入の実験で幸福度が高まったと述べています。