そこで目崎氏が注目するのが、心の内面について調査対象の個々人に直接質問し、その回答を評点化した主観的幸福感の調査だ。その1つが図4のワールド・データベース・オブ・ハピネス(WDH)の調査結果である。

図を拡大
図4 「主観的」幸福度世界ランキング(出所/2009年ワールド・データベース・オブ・ハピネス調査)

WDHはオランダのエラスムス大学のルート・ヴィーンホーヴェン教授が主宰する機関で、「現在の生活にどの程度満足しているか」と質問し、「非常に満足している」を10、「非常に不満である」を0とし、10から0までの尺度で回答を得て評点化。09年の調査で日本はHDIのときと変わってランキングを大きく下げ、中国やギリシャよりも低い60位にようやく顔を出す。逆にアルゼンチンは21位にランクインした。

同様なデータが米国ミシガン大学のロナルド・イングルハート教授が中心になって調査したワールド・バリュー・サーベイ(WVS)で、直近の05~08年にかけての調査で日本は42位、アルゼンチンは32位だった。私たち日本人は世界的にみてもそれほど幸福だとは感じていないようである。

もっともWDHやWVSのような調査に対しては、「謙遜が美徳とされる日本では、自分が幸福であるとアピールすることが少ない。過少申告した結果が出ているだけではないか」との批判も一部にある。しかし、目崎氏は「もしそうだとしたら、幸せであっても、それを告げることは“タブー”という文化が存在することになる。そうした文化は決して幸福とはいえず、結局は日本人の幸福度の低さを証明するはずだ」と反論する。

求められる脱集団主義

心理学者のマーティン・セリグマン氏によると、宗教を信仰している人のほうが、信仰心の低い人よりも幸福度が高いという。しかし、日本では「人生において神はどれだけ重要か」との質問に対して、「とても重要」という回答はたったの6%にしかすぎなかった。そうした信仰心の低さが、日本人の低い幸福度の原因になってはいないだろうか。

日本人とは逆に、イスラム教への信仰心が高いことで知られているのが中東諸国の人々だ。それに中東は産油国が多く、経済的にも豊かである。例えば、カタールは10年の1人当たりのGDPで世界トップクラスの金持ちに躍り出た国。病院や学校がすべて無料で、住宅も無料で提供されている。それなのに図4のWDHのランキングは37位にとどまり、フィンランド、ノルウェーなど北欧諸国の幸福度には遠く及ばない。この点について目崎氏は「個人の自由を制限する厳格なイスラムの戒律が、幸福度を低くしているのではないか」と見ている。