「宇宙人」が「欠かせない人」に変身

悩みの1つは、まず、毎年実施している定期採用で新入社員を募集しても優秀な人材がなかなか集まらないことである。これは外食産業共通の悩みのタネでもあるが、超氷河期と呼ばれているほど厳しい雇用情勢では、エントリーシートを提出して応募してくる学生の数だけはものすごく多い。だが、その8割、9割が第2か第3志望で、最初から外食産業で汗を流して働きたいという学生は極めて少ない。

しかも、国立などの一流大学からも応募者が増えているが、学校の成績は優秀でも、いざ採用してみると、毎朝の「おはよう」の挨拶が満足にできない人とか出社時間に何度も遅刻するとか、家庭で教える躾すらできていない。まるで“宇宙人”のような人間がいるから困惑する。本音を言えば、毎年150人前後採用しても、将来有望な使えそうな人材は約1割である。

以前、店長候補として採用した一流大学出の新入社員の例をあげると、彼に2、3年前のイベントのことを聞くと、日程などを少しも間違えずにスラスラと答えられるほど記憶力が抜群なのだが、店に出すと、これがまったくダメで使いものにならなかった。

ある日、犬が店先をうろついているので「追っ払え」と命じたところ、店の業務を放り投げて飛び出してから4時間も帰ってこなかった。本人曰く「追っ払ってもすぐに犬が戻ってくる」と。それを繰り返していたら4時間も過ぎたという。周囲の空気や人の感情が理解できない人は、接客の仕事には向かない。そういう人を店長にするわけにはいかないので、部署を異動させて数値管理の仕事をさせたら素晴らしい能力を発揮してくれた。適材適所を見つけ出すことも人事の重要な役割だが、今では本社業務のスペシャリストとして手放せない人材の1人だ。