労働者の心を折り、「自主退職」を迫る

<strong>弁護士 木下潮音</strong>●第一芙蓉法律事務所早稲田大学法学部卒業。1985年、弁護士登録。92年、イリノイ大学カレッジオブロー卒業、2004年4~05年3月第一東京弁護士会副会長。
弁護士 木下潮音●第一芙蓉法律事務所早稲田大学法学部卒業。1985年、弁護士登録。92年、イリノイ大学カレッジオブロー卒業、2004年4~05年3月第一東京弁護士会副会長。

一般に労働者を会社が解雇するには4つの要件を満たさなければならない。それらは、解雇の必要性、解雇回避の努力の有無、解雇対象者選定基準の合理性、労働者への説明・協議だ。多くの場合、整理解雇の前に希望退職を募るが、「自主退職」を「強制」されている例も頻発している。

「去年の春先ぐらいから正社員のリストラがガンガン進んでいます。リーマンショック後のテレビ放送で、米国のビジネスマンが書類でいっぱいの段ボールを抱えて出てくるのを観た方も多いのではないでしょうか。その解雇の方法はロックアウト型と呼ばれています。出社すると、セキュリティカードを取り上げられ、荷物をまとめさせられて自宅待機を命ぜられる。これと似た動きは日本でも徐々に広がっています」(高井)。いきなり休職扱いでドーンと突き落とし、ビジネスマンのプライドをズタズタにしたうえで、収入面でも大幅な減額をする。そして、転職活動を1日でも早くせざるをえない状況に追い込み、自ら退職届を出させる手法をとるのだ。実質的に「解雇」を行う手法はほかにもある。

「気をつけなければならないのは、社員を個人事業主にしてしまう方法です。そうすれば、経営者は社会保険料、労働保険料を負担せずに済むうえ、法律的な『整理解雇』をせずに、事業契約を見直すだけで、賃金カット、クビ切りがいとも簡単にできるのです」(高井)

「目立った問題行動を起こすのであれば解雇は可能ですが、企業にとって一番の問題社員とは『休まず、遅れず、働かず』の無気力な人たちです。クビを切る具体的で明確な証拠を提示できないからです。『いつもサボってばかり』ではなく、『○月×日△時□分から▲時■分まで、誰にも告げず、席にいなかった』等の小さな記録を積み重ねていくことが大事です」(木下)