公園は閉鎖。彼らは今、どこに

かつての「親衛隊」は、自分が気に入った1人のアイドルを応援し、ライブ会場で別のアイドルが登場しても滅多に応援することはありませんでした。しかし、オタ芸パフォーマーたちは、誰がステージ上にいても、いつも踊り続けています。自分の目当てのアイドルでも、初めて見るアイドルにも、精一杯、オタ芸を披露します。それぞれのアイドルと一緒にステージを盛り上げ、創り上げたいという応援スタイルに変わってきているのです。

オタ芸のパフォーマンスの仕方も、最近は変わってきたようです。最初の頃は自分の世界に入り込んで周囲に気を使えない様子を、私は大変危険に感じていましたが、最近では周りの状態を確認して他の来場客に迷惑を掛けないように注意して腕を振り回しているオタ芸パフォーマーが見受けられます。他の客との間合いを見計らいながら、全力で応援パフォーマンスをしている姿は、ある意味、見事です。

オタ芸の目的がアイドルへの応援であるわけですから、アイドルや他の観客に迷惑がられることは、オタ芸パフォーマーにとって不本意なはずです。自分たちの応援スタイルを崩すことなく、いかにアイドルのステージを盛り上げられるかを試行錯誤する中で、徐々に自主的なマナーやルールがオタ芸パフォーマーの間で生まれつつあると感じています。

オタ芸には「サイリューム」と呼ばれる、折り曲げると化学反応で10分ほど蛍光色に光る棒状のケミカルライトをよく使うのですが、1本100円ほどする「サイリューム」をアイドルライブの来場客に熱心に無料配布している若者もいました。その日のライブイベントをみんな一緒に盛り上げることで、アイドルたちを応援したいと考えているのです。秋葉原のステージに初めて立つアイドルにとって、この応援スタイルはとてもありがたいことです。

それでは彼らはいったい、いつどこでオタ芸の修練を積んでいるのでしょうか。

賑やかな秋葉原の中央通りから奥に入ると、50メートル四方程度の芳林(ほうりん)公園があります。かつては、夜になると、その公園にはオタ芸を練習する若者たちが集まっていました。オタ芸の練習にはサイリュームと音楽が必要であり、夜の公園が彼らにとって最適な場所だったのです。埼玉など近隣地域からわざわざ秋葉原までオタ芸の練習をしに通う若者たちもいました。地元ではオタ芸が奇異の目で見られて、なかなか練習できないそうです。秋葉原ではオタ芸が好奇の目にさらされることなく、その若者たちにとって居心地がよかったのです。

もちろん、秋葉原でも毎晩に公園で音楽を流すのは、住民にとって迷惑です。公園周辺の住民からは、若者たちの楽しみを奪いたくはないが、夜遅くに騒ぐのは勘弁してほしいとの声もありました。オタ芸だけが原因ではないと思いますが、昨年秋に突然、芳林公園が封鎖され改修工事が始まりました。半年の工事で完成した新しい公園には、立派な門と鉄のフェンスが設けられ、夜の公園の使用はできなくなりました。

それでは今、オタ芸パフォーマーたちはどこにいるのか。秋葉原の外れにある公共文化施設「アーツ千代田3331」前の広場に、彼らはいます。彼らは今、広場で音楽を流すことなく、ヘッドフォンを耳に当て、音を漏らさぬようにして、黙々とサイリュームを振り回し、オタ芸の練習をしているのです。練習場所を一時失った彼らは、どうすれば活動を続けられるかを考え、対策として夜の音出しを自粛しました。この一件によって、オタ芸が周りから受け入れやすい活動へと、さらに一歩進めたと思えます。

あらゆる文化は、最初から洗練され完成されたものではありません。特に若者が創りだす斬新なものほど、初めは粗野で理解しがたいことが多い。今は日本が誇る文化である「歌舞伎」でさえも、普及当初は若い女性や子供に演じさせる如何わしい演目もありましたが、禁止令とそれに対応する試行錯誤の中で、次第に洗練された舞台芸術と発展してきました。オタ芸も同様に、徐々に人々に受け入れられる洗練された文化に発展できるのではと期待しています。そしていつか、日本政府が「クールなオタ芸を海外に紹介しよう」と言い出すまでになるのではと予想しています。

※次週は著者取材のため休載します。次回は7/16(火)掲載予定です。

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