報酬よりも、“好きだからやる”

実はこの実験結果では、報酬を提示されたグループ2のほうが、解答までに3分半長くかかっている。これによって、狭い視野で目の前にあるゴールをまっすぐ見ていればよい場合には、「IfThen」式(ここでは「もし~なら、何を与える」)はうまく機能する可能性もあるが、より柔軟な発想が必要なときには、視野を狭めて集中させてしまう報酬の効果は薄いことを示したのである。

ピンク氏はこうした論拠をもとに「自分の主張」を展開していった。機械が単調な作業を肩代わりしてくれる21世紀では、人間にはより創造的で感性豊かな発想の“クリエイティビティ”が求められる。高い成果を出そうとするのなら報酬を与えるよりも、好きだからやる、面白いからやるといった、内的な動機付けに基づいたアプローチが必要であるという。

ビジネスのための新しい運営システム3要素は、「自主性」「成長」「目的」であり、服従を望むなら伝統的なマネジメントの考え方はふさわしいが、参加を望むなら自主性のほうがうまく機能する。それにもかかわらず、いまだにビジネスの世界では時代遅れで検証されていない前提を大切にし、科学よりは神話に基づいて報酬を行っているというのだ。そして、“好きだからやる”の動機づけがより効果的に働く「具体例」として企業での成果を示して主張の“証拠”を提示した。

それは、オーストラリアの企業が1年に何回か「これから24時間、好きなことをやれ」とエンジニアに時間を与えると、その時間から有意義な作業が生まれる。また、Googleを例に仕事時間の20%を自由な時間にあてることで、GmailやGoogle Newsなどを生み出したというものだった。そして最後には、全体をうまく包みあげるような「まとめ」を掲げた。