たとえば富山県は呉羽山を境に呉東と呉西という地域に分かれます。ですから富山県出身の部下に「ご実家は呉東? それとも呉西?」と聞いてみる。土地の人しか知らない知識であればあるほど、部下は「よくご存じですね」と思わず笑ってしまうでしょう。基本はもちろん「ほめる」こと。誰にでも必ず郷土愛はあるからです。自分では「あんなところ……」と思っていても“ふるさと”に注目されるのは嬉しいものです。

ただしここで肝心なのは、「名所・名物の第1位」を話題にしないこと。土佐出身といえば「坂本龍馬」ですが、言われるほうは龍馬の話題などもう飽き飽きしているはず。同じ土佐の志士なら「中岡慎太郎」で攻めてみてください。

また「滋賀県」といえば100人中95人が「琵琶湖」と答えますが、それでは話が弾まない。知名度でいえば2位以下のシブい話題を持ち出すのです。「鮒寿司はおいしいよね」「比叡山は京都ではなくて滋賀との県境にあるんだよね」「そろそろ鳥人間コンテストの時期じゃない?」などなど。

出身地は、その人のアイデンティティを形成している大切な要素です。部下の故郷に詳しいということは「君のことをケアしているよ」というサインになるのです。

また自分が上司として見知らぬ土地に転勤になったときは、自分流のやり方を押しつけてはなりません。上司の命令にしぶしぶ従っても、部下が納得していなければ生産性は上がらない。赴任先で自分と異なる仕事の進め方があっても馴染む努力をするべきでしょう。

東京では皆、エスカレーターの左側に立ちますが、大阪では右側です。「どちらに立つのが正しいか」で議論するより周りを見回して多いほうに合わせればいい。そうした柔軟性を持ちたいものです。

逆に、あなたの部署に、ほかの地域から転勤してきたばかりで周囲になじめない部下がいるなら、祭りや名所案内など土地柄が表れるイベントに連れていって地元の人との交流を図るのがいい方法です。自ら胸襟を開けば心は通い合うようになるものです。

NPO学習学協会代表理事、帝塚山学院大学客員教授 本間正人
1959年生まれ。東京大学文学部卒業後、松下政経塾で松下幸之助の経営哲学を学ぶ。卒塾後、ミネソタ大学から博士号取得。コーチングやポジティブ組織開発、ほめ言葉などの著書多数。
(構成=長山清子 撮影=上飯坂 真)
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