大宮から人事を告げられた鯨井だが、辞令直後に、「787」「MRJ」プロジェクトを成功させるため、あえて“航空機畑でない”メンバー10数名を集めて、チームを編成している。社長室、資金、経理、資材など様々な分野から構成された精鋭部隊である。約3カ月間にわたり、全員が顔をつき合わせ、民間航空機が現在置かれている状況や問題点の洗い出しを、“ゼロベースから”徹底して行った。

そして、航空事業の“方向性”が出された。(1)生産現場の混乱を避けるために、生産システムの改善が必要である。(2)サプライチェーンの改善が急務である。(3)生産現場において設備能力の限界がきているため、生産現場をメイコウ一極集中から自立分散型に変えていく(例えば一部を広島製作所、一部をカナダやベトナムの工場へと移管するなど)。こうして、それぞれの部門が、自主独立し、生産能力の向上を目指すことを確認しあったのだった。


ボーイング787ドリームライナーの片翼部分の前で写真撮影をする関係者たち。

世界中の注目を集めるボーイング787ドリームライナー(以下、「787」)。同機の巨大な複合材「主翼」を組み立てることができるのは、世界で三菱重工業だけだ。「787」は、三菱重工業、川崎重工業、富士重工業の3社で、機体の35%を担当する“準国産航空機”と呼ばれるが、特に、複合材「主翼」は、高度な技術が必要とされている。

「787」は、就航直後に発生したバッテリーシステムのトラブルにより、最近まで就航が禁止されていた。しかしながら、すでに800機余りの受注を受けているが、トラブル後も、キャンセルは入っていないという。複合材「主翼」の生産は、現在の月産5機から、将来は月産7~8機へ生産効率を上げる計画である。

宮永と鯨井が何としても成功させると力を込める「MRJ」プロジェクト。「787」のような長距離用の大型旅客機と異なり、「MRJ」は近距離用の小型旅客機である。14年に本格的な就航を目指すMRJだが、急成長を遂げる小型旅客機市場に参入を試みている。