親しかった大蔵省(現・財務省)の課長補佐が「米国大使館の若い男に『何で日本の生保は為替リスクがあるのに、こんなに米国国債を買うのか。理解できないし、いつまで買い続けるのか、役員に聞きたい』と頼まれた」と言う。すぐに数人の役員に当ったが、「自分の会社のことは話せても、業界全体のことなど話せない」などと、尻込みをした。やむを得ず、自分が会いにいく。

ガイトナーさんは、大学院でアジアの研究をした際に日本語を学んでいて、やり取りに苦労はない。13歳も年下だが、波長が合って、何度も会うようになる。彼が帰国してからも、季節の挨拶の交換を重ねた。2009年1月、オバマ政権の財務長官になったとき、お祝いの手紙を出したら、「ありがとう、がんばるよ」との返事が届く。

還暦を前に、また、「縁尋機妙」があった。2006年春、友人に頼まれ、あすかアセットマネジメントの谷家衛さんに会うと、新たな生保の設立を任せされる。谷家さんは、準備を進める相棒に、会社を辞めて米ハーバード大の大学院へ留学していた岩瀬大輔さんを呼んでくれた。谷家さんは核となる出資者だし、岩瀬さんはナンバーツーの副社長。こうした縁が、「還暦ベンチャー」と呼ばれた挑戦を、支えてくれた。

いま、週末に各地の小集会へ足を運んでいる。ベンチャー企業を興したい人、経営陣に入った人、就活中の若者たち。「還暦ベンチャー」の話を聞きたいとお呼びがかかれば、どこへでも出向く。年間に約200回、公民館などで、ネットでの呼びかけなどで集めたらしい20人から30人に、体験を交えて話す。

講演料は、受け取らない。その代わり、話の最後に生命保険について付け加え、自社を紹介したはがき大のカードを配る。1日に2、3回続くこともあるが、苦ではない。まだできて5年目の会社のPRになるからだけではなく、新たな縁に出会うことが楽しみだからだ。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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