たとえば、彼女宅から出勤する途中、自動車と接触しケガをした。ふだんの通勤ルートとは異なるものの、本人に非はない。でもこのとき、労災は……下りません。

根拠は、労災保険法が定める「住居」の定義です。住居とは「居住して日常生活をする家屋かつ本人の就業のための拠点」。そこでポイントとなるのが、彼女宅が「拠点としての住居か否か」ですが、この場合、彼女宅から出勤したのが「就業の必要上やむなく」ではなく「私的な理由」ならば、彼女宅は「拠点」に該当しません。

彼女との関係が半同棲、もしくは婚約中など「ほとんど夫婦」状態でも、住民票や生計が同じでない場合は、労災とは認定されにくいようです。独身者で平日は自宅へ戻り、週末は実家に帰ってそのまま月曜朝に出勤して負傷した場合も同様です。自宅がある限り、自宅が拠点なのです。

ただし過去の事例では、就業の必要上やむをえず「外泊」した場合、労災は認められています。残業が長時間になったため会社に近い上司宅に泊まった。早出出勤のためアクセスのいい友人宅に一晩世話になった。そんなケースです。また、台風や地震、交通ストライキなどで自宅まで戻れない場合の「外泊」も労災認定されます。

では、電車で帰宅途中、ダイエットや健康のために一駅手前で下車し、歩いているときの事故はどうでしょう。人身事故などで電車の運転を見合わせているときや、ターミナル駅での乗り換えや電車到着までの待ち時間などを勘案した結果、最寄駅まで電車で行くよりも、そのターミナル駅で下車して歩くほうが早いと判断したときなどは労災認定されるようです。しかし、ダイエットや健康のためという私的行為に基づく場合は、認定されない可能性が高いでしょう。それは通勤ではなく趣味・自由時間のウオーキングだと考えられるからです。