ヒラメ、ブリ、そしてクロマグロ。近大は養殖のパイオニアだった

それにしても、なぜ近大がレストランを経営しているのか。そもそも、どうしてマグロを養殖しているのか。話はずっと昔、戦後間もない1948年にさかのぼる。


マグロの稚魚は小指ほどの大きさもない。それが10年で2m、重さは200kg近くまで育つ。ちなみに成長期にあるマグロを1kg太らせるためには、サバなどのエサが13kgも必要だという。

当時、日本の漁獲高は落ち込み、国民は食糧難に苦しんでいた。そこで近大初代総長の世耕弘一は、海を大きな生け簀(す)ととらえ、魚を収穫できる「海の畑」をつくろうと考えた。これが近大による魚の養殖の始まりである。

当初は失敗の連続だったが、研究を重ねた末、1965年に世界で初めてヒラメの養殖に成功する。以後、ブリ、カンパチ、シマアジなどでも成功を収め、近大は養殖のパイオニアとしての地位を確立していったのだ。

「高級魚の代表格、本マグロことクロマグロの養殖を成功させるまでには32年もかかりました」

そう語るのは、養殖マグロのエキスパートである岡田貴彦さん。大阪から特急で3時間。本州最南端の町、和歌山県の串本町にある近畿大学水産研究所・大島実験場で、30年以上もマグロと向かい合ってきた。

近大マグロの故郷である大島実験場では、数人の農学部生が住み込みで養殖を学んでいる。

「ああ見えて、マグロは繊細な魚なんです。雷や車のヘッドライトが海面を照らしただけでパニックを起こし、生け簀の網にぶつかって死んでしまうこともよくあるんです」

さまざまな苦労を乗り越え養殖を軌道にのせた岡田さんたちは、この施設で約5千匹の近大マグロを育てている。マグロが泳ぐのは、直径30メートル、水深10メートルの円筒形の生け簀。取材で訪れた日、お店に出荷するため2メートル近いマグロが水揚げされた。電気モリを打ち込み、クレーンで船に揚げられた巨大なマグロは迫力満点だ。

「人間の手できちんと管理して育てられた養殖マグロは、安全で安心な食べ物です。冷凍する必要はないので、鮮度が良く味も落ちないですよ」