営業は恋愛と似ていて、押すだけではダメ

【田原】リクルートではどのようなお仕事をされていたのですか?

【太田】フリーペーパーの広告を取る仕事です。創刊時に採用されたので、当初は知名度はゼロ。ラックの設置から始まり、そこにある店舗にも広告を提案するのですが、いざお金を頂こうとするとまったくダメ。とにかく数をこなすしかないと思って1日50件回ったのですが、それでも契約はゼロでした。当時は「社会ってこんなに冷たいんだ」と毎日、泣いていましたよ。

【田原】初めて取れた契約を覚えていますか。

【太田】自力で最初に頂いた契約は、新宿のパークタワーの中にあった飲食店です。最初はけんもほろろだったのですが、とにかく何度も通って「お変わりないですか」というふうに挨拶をしていくと、お店の対応も「また来たね」と少しずつ変わってきて。これはほんとうにうれしかったですね。

【田原】なるほど。でも、通うだけの営業なら大勢いますよね。何か工夫しないと、契約を取れない気がするけれど。

【太田】毎回同じ名刺を置いて帰るのもつまらないので、1回目は普通の名刺、2回目にはシールを貼った名刺、3回目はメッセージを書くなどして、毎回名刺に変化をつけていました。普通は名刺や手紙は捨てられますが、毎回変化をつけるとお客さんも捨てづらくなり、10回目くらいになると「仕方がないから、話を聞いてあげるよ」と。

【田原】営業のやり方を、さらに具体的に聞かせてください。最初はとにかく通うということだけど、お店に行くと、どれくらい話して帰るのですか。

【太田】最初は短いほうがいいですね。弊社で1度、データを取ったら、「最初の折衝が短くて、通ううちにだんだんと長くなるケースのほうが契約につながりやすい」ことがわかりました。通うにつれて少しずつ相手のことを掘り下げていくアプローチですね。