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60代の破綻危険度

ここで、老後にお金が必要となるシチュエーションを考えてみよう。Eさんの場合、すでに2人とも子どもが独立しており、結婚のための資金援助も必要ないし、住宅購入資金の援助も必要なさそうだ。

大きくお金がかかるとしたら、住宅のリフォームや家電の買い替え費用だろう。古くなった家を修繕する、バリアフリーにリフォームするなどの必要が出てくれば、1000万円単位の出費が発生する。

老後生活がスタートすると、増やすことよりも取り崩していくことが中心となる。借り入れに頼ることもできないし、昇給やボーナスもない。Eさんは「これからは夫婦で海外旅行にも行きたい」と言っていたが、まずは働いているうちに1500万円くらいまで貯蓄を増やしておくと安心だ。

結局Eさんは、退職前に勤めていた会社の再雇用制度を利用して再就職することにした。もともとエンジニアだったため再就職もしやすかったのだ。結果、収入面が大きく改善され、夫婦の手取り収入は計45万円に。ここに夫と妻の年金(報酬比例部分)10万円を足して、月々の収入は55万円になった。

夫が働くことで年金額は3万円減ったが、働くことによる収入増のパワーのほうがずっと大きい。毎月貯蓄に回せるお金は28万8000円である。年間345万円の貯蓄を65歳まであと4年間継続すると、合計1300万円強。現在の貯蓄と合わせれば1600万円となる。

Eさんの場合、住む家もあるし、65歳になれば年金が満額支給となる。年金だけの生活になっても、単純計算で80歳までは安心だ。

なお、2010年の総務省の家計調査によれば、世帯主が60歳以上の無職世帯(2人以上の世帯)の1カ月の可処分所得は18万7385円に対して、消費支出は24万5870円。5万円強が不足している計算だ。

仮に月5万円ずつ20年間貯蓄を取り崩すと考えると、1200万円が必要になる。1000万円しか貯蓄がなければ足りないが、もし2000万円あれば、同じように5万円ずつ取り崩しても、万が一のために800万円が残る。

老後の生活が長くなったうえ、預貯金の利息はほとんどつかない時代だ。「年金生活で悠々自適」は、もはや贅沢といえるだろう。Eさんはそれができる最後の世代かもしれない。気持ちを切り替え、孫への小遣いを抑えていけば、夫婦揃って海外旅行の夢も十分に叶うはずだ。