エネルギー供給の“玉突き現象”

シェールガスなどの天然ガスは、石油や石炭などと比べると熱効率が高く、二酸化炭素の排出量が少ない。他の化石燃料よりもクリーンな天然ガスが、シェールガス革命によってほぼ無尽蔵に使えるとなればバラ色の未来に思えるが、一方で環境リスクを危惧する声もある。

シェールガスやシェールオイルは、化学薬剤を添加した高圧の水でシェール層にヒビを入れて採掘する。フラッキング(水圧破砕)という技術だが、この影響で地震が多発したり、地下水が汚染される、水道水にガスが混ざって出てくる、などの環境リスクが指摘されている。それでもコロラドやオハイオなど予想したほど生産量が確保できなかった州を除いてはシェールガス狂騒曲が収まる気配はない。

短期的にはシェールガスの開発と、その周辺技術や産業で先行投資が生じて、アメリカの景気を底上げしている。低コストのエネルギーと原料調達を目的として世界の石油化学会社や商社を中心に米国内での設備投資を拡大し、すでに製造業の米国回帰も始まっている。

中長期的にはアメリカはガス・オイルの純輸出国となり、資源輸出国としてエネルギー覇権を握るだろう。そうすれば、アメリカの貿易収支は改善されて、財政赤字も減ることになり、シェールガス革命がアメリカ経済を復活に導くシナリオは描きやすい。

当然、世界のエネルギー地図も変わってくる。たとえば石油やガスなどの資源輸出で国づくりを進めてきたロシア。シェールガス革命の余波で廉価になったアメリカの石炭をヨーロッパ勢が輸入するようになり、ロシアから天然ガス輸入の量を削減、値引きも要求しているため、ロシア経済は大きな打撃を受けている。

アメリカ国内においては、発電用の石炭価格が暴落した余波で、原発の新規建設計画が中止となり、受注を期待していた日本の原発メーカーにも打撃となっている。またアメリカ向けに計画していたオーストラリアのLNGプロジェクトが中止に追い込まれ、やはりアメリカ向けだったカタールのLNGがヨーロッパに流れることになった。結果、欧州市場ではガス供給が過剰になり、スポット価格も低下、割高なロシア産天然ガスの購入を手控える動きが出てきたのだ。

そのため“世界最強のガス輸出国”として強気な商売をしてきたロシアは、パニックに陥り、欧州市場の縮小で行き場を失った天然ガスを日本や韓国、台湾などのアジア市場に振り向けようと売り込みに必死である。

このように、アメリカ発のシェールガス革命により、世界中でエネルギー供給の“玉突き現象”が生じているのだ。