相手はなにかにつけて飲食の機会を持とうとする。そのときは、絶対に相手に支払いをさせてはならない。借りをつくることになるからだ。店はこちらの指定したところとし、予め支払いを済ませるよう図らっておく。

警察と親しくなれば、次のような裏ワザを使うこともできる。相手が訪問する時間を狙って、所轄署の制服警官に来てもらうのだ。たとえば社有車のナンバーを変更したなどの理由で、事務手続きのための「巡回連絡」を要請する。いわば暴力団への威圧行為だ。

そうこうするうち、相手は態度を豹変させる場合がある。「こちらは穏やかに取引の話をしているのに、どういうつもりだ!」と凄んできたら、担当者の身辺が危うくなる。すみやかに異動させ、後任者が対応するようにしたい。

相手はさまざまな嫌がらせを用意している。たとえば企業の担当者を尾行し、信号で立ち止まった瞬間、「うちには命知らずの兵隊がいるからな」と耳元でささやく。そういうとき、ICレコーダーを取り出して録音するそぶりを見せると、相手のほうが逃げ出すだろう。録音していれば脅迫罪の証拠になるからだ。

見かけは怖いが、個人としては決して強くはないのが暴力団だ。彼らは基本的に労働をせず、怠惰に暮らしているからだ。また覚醒剤など薬物に染まっている場合もあり、日々鍛錬を重ねている警察官と比べれば体力・気力は雲泥の差だ。そのことを頭に入れ、多少のことでは驚かない胆力を養っておく必要もあるだろう。

作家・元警視庁刑事 
北芝 健

東京都生まれ。早稲田大学卒業後、会社勤務を経て警視庁へ。近著に『刑事捜査バイブル』(共著、双葉社)。
(構成=鈴木優子 撮影=的野弘路)
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