交渉は相手の立場に立って両者の満足八分目がいい

ファイターズは選手のしがらみなどお構いなしで、ほしいポジションで、その年の一番と判断した選手を獲りにいく。ダルビッシュ有投手(04年)も陽岱鋼選手(05年)も中田翔選手(07年)も斎藤佑樹投手(10年)も菅野智之投手(11年)も……。山田GMは言い切る。

「周りからの圧力などで、ドラフト指名をやめることは絶対しない。その都度、一番いいなと判断したことをやっているだけです」

一昨年ドラフト1位の菅野投手は結局獲得できず、昨年のドラフトで巨人が指名した。教訓は。

「ちょっと高をくくったというか、もう少し完ぺきにしないといけなかったという反省があります。詳しくは言えませんが、まあ、僕の失敗です」ドラフトでいえば、11年ドラフトでは7位で異色選手、ソフトボール一筋の大嶋匠捕手(早大)を指名し、周りを驚かせた。ここにファイターズのこだわりが見える。山田GMが独り言のように、つぶやく。

「実はソフトボールで一生懸命やっている選手にも光を与えたいという思いもありました」

山田GMの哲学。スカウトとは「ひとりの人生を変えてあげる、チャンスを与えてやれる」仕事なのである。

プロ野球でヒーローになれば人生が変わる。だからスカウトは高校の甲子園大会や社会人の都市対抗だけでなく、地方大会、軟式野球、ソフトボールにも目を配らないといけないのである。そうやって隠れた才能を探し、プロ野球の光をあてる。人生が開ければ、いずれスカウトに感謝するだろう。

もはやカネや名誉ではない。スカウトの喜びは「感謝」である。

「日本ハムのお陰でプロ野球に入れて人生が開けたと思ってくれることが1番、うれしいんです」

チームの戦力整備でいえば、日本ハムはキャンプ直前の1月下旬、オリックスと大型トレードを成立させた。今季終了後にポスティング・システム(入札制度)を利用してメジャー挑戦する意思を球団に伝えたばかりの糸井嘉男外野手らを放出し、オリックスから木佐貫洋投手らを獲得した。

今季の戦力ダウンを覚悟し、来季の戦力ダウンへの未然の対処策に見える。中長期の戦力バランスを考えた、いわば先を見据えたトレード。得か損か。ストレートの質問をぶつけると、山田GMにやんわりかわされた。

「トレードというのは、自分のチームのことばかりを考えては話がまとまりません。相手側の立場にも立って、両者の満足八分目がいいんです。欲をかいてはダメなんです」