40代の役員・経営者が珍しくない欧米企業に対し、日本企業では60歳近くならないと社長になれない。すでに経営人材の競争力において後れをとっているのが実態だ。そのことを強く意識した企業の多くが取り組んでいるのが、選抜型の経営幹部養成である。

具体的には、管理職前後の若手社員のなかから将来の社長や経営幹部候補を早期に発掘し、計画的な育成と配置を繰り返しながら経営者に鍛え上げていくという仕組みだ。従業員5000人以上の企業では約4割が導入しているという調査もある(日本生産性本部調査)。

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図1:キリン「選抜型」人材育成メニュー

キリンホールディングスの経営人材の育成は、非管理職層の「キリンビジネスカレッジ」と管理職以上を対象とした「キリン経営スクール」「キリンエグゼクティブスクール」の3つのコースに分かれる。いずれも指名と公募で選抜され、研修期間は11カ月。ただし、隔年で実施されるために2年に1回のチャンスしかない。

しかも、キリンビールに限らず、キリンビバレッジ、協和発酵キリンなどグループ企業の全社員を対象とする割には定員がごくわずかだ。キリン経営スクールは40代前半までの課長職クラス(社内資格は副参事・参事)が選抜対象となるが、2012年の定員は16人と少ない。

選ばれるには論文と面接の2段階の審査をクリアする必要があり、指名された社員も審査を受ける。指名されるのは「部門長がぜひやらせたいと思う人、あるいは職場では重宝がられているが、もっと能力を広げるチャンスを与えたいと人事が考えている人」(三好敏也・キリンホールディングス人事総務部長)。つまり衆目が一致する優秀な社員だ。

論文は、経営課題に対する考察と、自分が貢献できることは何かをテーマに作成。論文審査をパスした人が面接に進む。論文の内容に沿って三好部長自ら面接に当たるが、着眼点は「変化に対する感受性」だ。

「変化の中にビジネスチャンスがあると前向きにとらえているかどうかを最も重視しています。しかも変化を評論家的にとらえるのではなく、自分が経営者だったらこうするというリアルな認識と当事者意識を持って考えているかどうかを見ています」