本書を選んだ理由の1つは著者の話題性である。しかし、私が本書を取り上げる理由はもう1つある。著者への同情だ。罪を犯したことではなく、彼に対する日本の経済界の憎しみの視線と態度に反発を覚えたのだ。ネクタイを締めない彼を傲慢ととらえたり、若者が犯しやすい過ちを容赦なく攻撃する。それでは日本の若者が成長できなくなるよ、という私の思いを伝えたかった。

時間の密度が極端に薄い囚人の身でも彼の心はビジネスの戦場にある。スタッフの力を借りてブログを書き、最初から「書籍にフィットする企画」と位置付けていた。刑務所でも金持ちは金持ちの思考パターンと行動パターンで行動を起こすのだ。本人もそれを得意げに披露する。本書は「おそらく世界でも稀な、刑務所内から発信したビジネスガイド」で、「私のような境遇い人たちのとても真っ当な欲求」を「不謹慎」と見て「無言の圧力」をかける日本社会に矛先を向けて書かれている。「くだらない圧力なんて、無視してしまえ!」と彼らしい応援歌を若者たちに送る。

しかし、著者のメッセージは「金儲けしていい」という内容だけではなく、「儲けてからどうするの?」というところにある。「第4章 本当に幸せなライフスタイルとは?」を見てみよう。小見出しは、「既存メディアの情報だけでは『洗脳される』」「シングルマザーを認める社会のほうが子供は増える」……。そして実際、意外にまともなことが書かれている。

たとえば、「日本では格安の吉野家の牛丼ですら独自デザインの陶磁器を使っている」と例を挙げながら「バラエティ豊かな食器群が和食の魅力を向上させている」と主張。東南アジアの屋台などはプラスチックのチープな容器を使っているため、ここが「ビジネスチャンスなのではないか」と指摘する。そこで彼が出した処方箋は、「料理における食器の魅力と重要性を啓蒙するイベントを開催する」というものだ。

囚人という字は刑務所を意味する囗に「人」が入っている。まさに囚われている人間だ。しかし、人間の肉体が囚われても、思想は禁固刑を言い渡されていない。刑務所内からの「金持ち」のメッセージは1冊の本となり、収監されてはいないが、日常的に不安と絶望に囚われている人たちを見て、その背中を押す手助けができればと思うと著者は語る。「金持ち」が出した「金持ちになって君はどうするの?」という質問への回答である。