PANA=写真
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NHK会長 松本正之(まつもと・まさゆき)
1944年、三重県生まれ。67年、名古屋大学法学部卒業後、日本国有鉄道入職。87年の国鉄民営化時に、JR東海に配属。2004年に代表取締役社長、10年、副会長。11年1月25日より現職。趣味は油絵、俳句など。


 

2月3日、就任後初の定例会見に臨んだ表情はややこわばっていた。大相撲の八百長問題に関連して、NHK福祉大相撲の開催中止を発表。

「楽しみにしていたお客様には、主催者として心よりおわび申し上げます」と頭を下げた。質疑応答でも、質問は八百長問題に集中したが、冷静に対応し、まずは無難な船出といえた。

新会長の人選は迷走した。企業でいえば、最高経営責任者(CEO)にあたるNHK経営委員会が、いったん決めた新会長人事を白紙に戻した。一部委員から異論が出たからだ。一時は内部昇格との声が強まったが、結局は当初の方針通り、外部からの起用で、JR東海副会長の松本正之氏で決着した。

改革継続の重責を担って、現場指揮官として松本氏の実行力に注目が集まる。旧国鉄時代に労務畑を歩み、分割民営化に尽力した。JR東海でも「誠実で、真摯に仕事に取り組む」と評価されてきた。公共性という面では、鉄道も放送も同じ。民営化を経て“お客様目線”の経営も経験済みだ。

だが、ネット時代に入って「twitter」や「Facebook」、動画共有サイトなど双方向のソーシャルメディアの存在感が増すに連れて、放送や新聞など既存メディア離れが起きており、その存在意義が問われはじめている。NHKには、名作ドラマや優れたドキュメンタリー番組が数多い。とはいえ、ネットでの単なる番組有料配信サービスでは、大きな支持は得られないだろう。

この7月に迫る地上波完全デジタル化後は、対応テレビの半ば強制的な買い替えを嫌った若者のテレビ離れが進むともいわれている。受信料に頼る経営は、いずれ立ち行かなくなる。放送法の改正も必要になるが、既存メディアとして、次代に合わせた大胆な改革と経営方針を打ち出すべきだ。

(PANA=写真)