おそらく答えはノーだ。粘り強くアプローチしてロイヤルカスタマーになってもらえれば、いずれ自分の収入増につながるが、それはしばらく先の話。営業担当者にとっては、いま年収が減ってしまうことのほうが何倍も現実感がある。そうした目先の不安を解消するために、種をまかずに刈り取りやすい案件から飛びついてしまうのである。

営業担当者のこうした心理を責めることはできない。種まき型営業を浸透させたいなら、むしろ現場の営業担当者たちが目先の不安を感じなくて済むような評価制度に変える必要があるはずだ。

種まき型営業を促す評価制度はいろいろと考えられる。一般的に新規顧客の獲得は既存客からのリピート受注に比べて6~8倍の労力がかかるといわれている。

だから営業担当者は自分の行きやすい既存客のところばかり訪問するのだが、これを変えるには、新規顧客からの受注額を6~8倍にして評価してあげればいい。あるいは、賞与のうち6割は既存顧客の予算達成率で、4割はプロセスの進捗で評価するというように、新規顧客を無視できない制度にしてもいい。

目先の案件から顧客との関係性構築に目を向けさせるためには、顧客数による評価や、顧客からの声といった定性的情報による評価を組み込むことも必要になってくるだろう。大切なのは、結果主義の評価体系から、顧客重視でプロセス主義の評価体系に軸足を移すこと。それができてはじめて部下も種まきに精を出せるのだ。

とはいえ、評価制度の改革は営業部門だけでできる話ではない。人事評価制度は組織の根幹にかかわる話であり、会社全体を巻き込んでいかなければ実現できない。営業マネジャーが、経営陣や関係部署に種まき型営業の重要性を説き、評価制度改革の必要性をいかに納得させられるか。現場が安心して種まき型営業に注力できるかどうかは、そこにかかっている。