1時間前

酒巻さんにとっての「本番」は、新製品発売日の朝9時である。会社が動き出し、情報という血が巡りはじめ、新しい商品を「これから売るぞ」という前向きの空気が満ちていく。酒巻さんは、そのときに意識を集中する。

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量販店の開店は10時が多く、コンビニエンスストアは24時間営業だからそれより前に商品を売り出している。考えてみれば、酒巻さん自身が経験したように、スーパーの酒売り場では前夜のうちに商品の積み上げが始まり、その場で買っていくお客も少なくない。

だから、販売店の開店時刻を本番ととらえるのは無理がある。むしろ、サントリーの人びとが戦闘態勢に入る9時が象徴的な時間なのである。

その日、酒巻さんは早起きして会社へ向かった。途中、コンビニに立ち寄り、商品がケースに並んでいることを確認してから定時の1時間前に出社した。

朝8時。いつもより30分ほど早い。

PCでイントラネットを開き、各地の営業マンが送ってくる店頭情報を精読する。簡単な文字情報のほかに店頭の写真がついている。

多くの営業マンは昨晩のうちに売り場づくりを終えていた。画面からその様子が見て取れる。想定したとおりのみごとな売り場がたくさんあった。代表的なものをピックアップし、今度は酒巻さんがイントラ上に文章を書き込んでいく。

「○○で、すごくよい店頭が立ち上がっています。参考になさって下さい。みなさんの担当店でもがんばって下さい」

やがて9時を回り、イントラ画面を覗いた営業マンは、他店の報告や酒巻さんの書き込みを見て発奮するだろう。

「のんある気分は想定以上にヒットしていますが、まだまだ『ノンアルコールカクテルって何?』というお客様も多いと思います。知っていただければきっとファンになってもらえます。ですから、もっともっと知ってほしい」

酒巻さんは目を輝かせてこう話す。明るい話術と文体で社内を巻き込み、前へ前へと進んでいく。

(ミヤジシンゴ=撮影)
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