2013年6月14日(金)

水ナス――漬物もいいけどサラダでも

dancyu 2012年7月号

福地享子=文

生でもおいしいナスと聞いて、それがどうした、の気分。子どものころから、サンザッパラ生で食べてきたわい、と。なにかあと一品ということあらば、裏の畑からナスをもぎ、塩もみするのが、実家のお決まり。塩もみして酢と醤油、味の素パパッでかつぶしを。まぁ、飽きもせず、よく食べさせられた。だから、今さらと、水ナスには冷やかな私だった。

そんなある日、イタリアンの前菜に、水ナスを見つけたのだ。単なる好奇心で頼んだそれは……。ゴロゴロと切ったナスにオリーブ油がトロリ、薄切りのパルメザンチーズが花がつおもどきに躍っていた。なんじゃこれ、料理ですかい、と、小馬鹿にした気分で口に。そして3秒後、私はそれまでのナス観が音をたてて崩れていくのを知った。チーズもオイルも一級品だったけど、そのナスの味わいときたら。フルーティ&ジューシー。カシッと皮に歯をあてたときの感触がいい。果肉はあくまできめ細かく、瑞々しさは朝露のごとし。果物のように爽やかで、ほのかな甘みさえも。要するに、この瞬間、水ナスに惚れてしまったのだ。

ナスはインド原産で、8世紀に中国を経て日本に渡来したとか。花をつけたら必ずのように実を結ぶ律義さゆえか、古くから栽培作物となり、各地の風土に添って、土地固有の姿で育ってきた。

水ナスはその典型。勇壮なだんじり祭りで有名な岸和田を中心とした泉州地方で、そこだけのナスとして。土壌がそうさせるのか、水分の多さはひときわで、野良仕事の合間、水がわりにかじることも。収穫すれば、保存のために糠漬けに。どうしようもない古漬けになったら、大阪湾でいくらでもとれたジャコエビと炊き合わせたおかず「じゃここうご」にして。広く流通させようとしても、ことさら薄い皮と水分ゆえに傷みやすく、ままならなかった。

【つくり方】
水ナスは、包丁を使わずに手で裂くのがいい。ヘタを切り取り、切り口に6~8カ所、包丁目を入れ、そこから縦に裂く。レモンをたっぷり搾りかけ、胡麻油とまろやかな自然塩を添えて、が目下のお気に入り。

転機は40年以上前。クール宅配便で漬物が販売されるようになり、全国にその名を知られることになったのだった。やがてもぎたてそのままも。築地でも、35年以上前から入荷している。

今では「泉州水なす」の商標を取得、露地栽培が始まる6月からが本シーズンだ。生食のおいしさがうけて、関東近県からサラダ水ナスの名で出荷されるものも出てきたが、土壌の違いか、本場物に較べるとなんだか物足りない。

泉州では漬物が一般的で、それも広く売られているが、私は第一遭遇のショック冷めやらず、鮮度のいいうちにもっぱらサラダだ。時間がたつと、やはりエグミを感じるので、水でさらして焼いたりするが、なんだか水ナスに申しわけないことしてる気になってしまう。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。