3、4年後に会うと“暴れてる”受講生

受講者はまず、ベースとなるMBA(経営学修士)的なスキルの習得を課される。財務、マーケティング、事業戦略が3本柱。ビジネスモデルを考えるのに必要な知識だ。学習はケーススタディ中心。毎回課題図書を4~5冊読み、事前に出されたケースを分析してレポートを提出し、当日に臨む。研修では各分野の専門家の講義の後、グループ別に討議を行い、発表する。この討議も発言内容で知識や見識が試され、ステータスオークションの場となる。身につけたスキルをもとに、半年かけて取り組むのがアクションラーニングだ。

「アクションラーニングは学んだスキルを実践の場へと結びつけるためのもので、テーマ設定の力量も問われます。重要なのはイノベーティブであるかどうか。職場の改善レベルでは却下です。パフォーマンスを3年間で30%向上させるといった事業計画レベルのテーマが求められ、受講者はスケール感と現実感のはざまで頭を悩ませます。なおかつ、キヤノンの場合、“共生”という企業理念とテーマがどう結びつくかが必ず問われる。学生時代からお勉強が得意で、レポートをまとめるテクニックが優れているだけの人間はつまずき、力が露呈されます」(本間氏)

キヤノンの幹部候補生向け研修施設の内部。御手洗会長肝いりでつくられた同施設は地上4階、地下2階。GEの有名な研修施設であるクロトンビルをモデルにしている。目黒区の都立大学駅に程近い閑静な住宅街にある同地は、同社創業の地でもある。

「共生」とは「すべての人類が共に生き、幸せに暮らせる社会をめざす」というキヤノンの理念。テーマと理念の結びつきがあいまいな受講者は講師たちに徹底して追い詰められる。

ある技術者は初め、「部材を変える」といった程度のテーマだったが、共生理念とのつながりを問われ、「あなたは本当にキヤノンのエンジニアか、こんなのは誰でも考えつく、悔しくないか」と突き返された。すると、製品設計を根本から変え、外注先とも共生をめざすビジネスプランへと再設定し、講師陣を驚かせた。ここにキヤノン版ビジネススクールの本来の目的があると本間氏はいう。

「CILの選抜者は未公表ですが、これが昇進に結びつくわけではありません。他流試合の場で相互に啓発し合い、切磋琢磨して気づきを得たら、実践の場へとつなげる。そのため、各事業本部には選抜した社員について人材育成計画書を作成して数年先までのキャリアプランを考えてもらいます。研修後に現場で修羅場体験を積ませ、ひと皮もふた皮もむけて成長していくことが理想です」