破り捨てる「ToDo」帳

<strong>杉山 剛</strong>●虎ノ門支店ウェルス・マネジメント課長。1971年、東京都生まれ。95年、青山学院大学経済学部卒。同年、野村証券入社、郡山支店に配属される。99年より渋谷支店、2002年に企業金融3部。07年より現職。
杉山 剛●虎ノ門支店ウェルス・マネジメント課長。1971年、東京都生まれ。95年、青山学院大学経済学部卒。同年、野村証券入社、郡山支店に配属される。99年より渋谷支店、2002年に企業金融3部。07年より現職。

「手帳ですか? メモを書いた紙は、すぐに切って捨ててしまいますね」

野村証券虎ノ門支店の杉山剛氏はA5サイズの黒革のシステム手帳を愛用している。中小企業や財団法人、富裕層の個人など、合わせて約300口座の顧客を担当するほか、50人を数える支店の営業社員の進捗状況も管理している。さぞかし大量の“得意先情報”が手帳に書き込まれていると思いきや、さにあらず。拍子抜けするほど、白い。しかも、「切って捨てる」とは穏やかではない。

以前はこの手帳に、見開き1カ月の日程表を差し込んで予定を管理していたが、「iPhone」の発売を機に切り替えた。理由はスピードだという。

「手帳が大きいため、移動中は予定を書き込みづらかった。iPhoneを使えば、より早くて手間が少ない」

営業記録の管理には社内イントラネットを使う。どの顧客にいつ接触したかといった情報を社内で共有する仕組みだ。多い日には30件近く電話をするが、そのすべてが記録される。顧客の情報を手帳に書く必要はない。

手帳は仏製高級ブランドのもので、異動時の餞別品。部署によって使い方も変わる。「本社の仕事では1日で終えられるタスクは限られているので、なかなかページを破れなかった」。
写真を拡大
手帳は仏製高級ブランドのもので、異動時の餞別品。部署によって使い方も変わる。「本社の仕事では1日で終えられるタスクは限られているので、なかなかページを破れなかった」。

では、あの黒革の手帳は一体何に使うのか。中を覗かせてもらうと、こんなメモがあった。〈部長とミーティングセット〉〈8月末の債券の時価評価〉〈A社企業レポート読み込み〉……。手帳の左端に日付、右端にチェックボックスがある。毎日発生する10本前後のタスクを日付ごとに列記し、タスクが済めばチェックを入れる。タスクのほとんどはその日のうちに書き込まれ、その日のうちに処理される。なかには相手の都合で終えられないものもあるが、2週間以上も野ざらしになることはない。すべてのタスクが終われば、ビリッと破いて捨てる。

このため杉山氏の手帳には2週間以上前の日付は存在しない。手帳はいつもスマートなままだ。なぜ貴重な仕事の履歴を自ら削除してしまうのだろうか。

「顧客に過去のことを聞かれることはありません。関心事は常に『いまどうすればいいか』。実務のうえでも、なによりスピードが求められますから、過去を振り返っている時間がない。みなさん、いつ昔の手帳を開くんですか?」

出社は毎朝7時。8時から会議があり、9時には株式市場が開く。開場中は問い合わせに応じられるように、あまり外に出ない。取引が終わる15時から外回りを始め、17時には帰社。19時過ぎには帰宅する。

「夜にできる仕事はないんです。机上には毎朝大量のレポートが山積みされますが、その日のうちに読み込んで、顧客にフィードバックしなければ意味がない。だから無駄をやっている時間はまったくない。そもそも落ち着いて時間管理をしているような時間がありません」

常に動き続ける為替やトレンド、それに応じて入れ替わる業務の優先順位。杉山氏にとって「捨てる」とは、刻々と変化する苛烈な場所で「前を向いて、攻める」ためのエンジンだといえるだろう。