2013年5月22日(水)

不合理な労働条件 -契約社員が正社員待遇を手に入れる法

PRESIDENT 2013年4月1日号

著者
村上 敬 むらかみ・けい
ジャーナリスト

1971年、大阪府生まれ。東京外国語大学外国語学部(マレーシア語科)卒。ビジネス誌・エンタープライズIT誌を中心に、自己啓発から経営論まで、幅広い分野で活躍中。

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答えていただいた人 弁護士 向井 蘭 文=ジャーナリスト 村上 敬 図版作成=ライヴ・アート

正社員と同じ仕事をしているのに、非正規というだけで低い賃金に甘んじている契約社員は少なくない。はたして、非正規社員が正社員並みの待遇を手に入れる方法はないのだろうか。

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不合理な労働条件の禁止(第20条)とは?

期待したいのが、今年4月に施行された改正労働契約法だ。今回の改正では、「不合理な労働条件の禁止」(第20条)が新設された。

これは、同じ会社で働く有期契約労働者と正社員を含む無期契約労働者(以下合わせて「正社員」)とのあいだで、「有期契約だから」というだけの理由で労働条件に差をつけることを禁じたルールだ。賃金や労働時間はもちろん、災害補償や服務規律、教育訓練、福利厚生といった労働者に対する一切の待遇がその対象だ。

ただし、何から何まで正社員と同じになるわけではない。契約社員と正社員の労働条件の差が不合理かどうかは、職務や責任の内容、配置変更の範囲などを考慮して判断される。たとえば、仕事の内容が限定され、転勤もない契約社員が転勤のある正社員と賃金が違っても、それは不合理といえない。不合理だとされやすいのは、契約社員が実質的に正社員と変わらない仕事をしているケースだ。

低い待遇に悩まされてきた非正規労働者にとって、今回の改正は一歩前進に思える。しかし、労務問題に詳しい向井蘭弁護士は逆の影響を指摘する。

「全国展開の大手小売店では、転勤のないエリア正社員とベテランのパートや契約社員が同じ仕事をしているケースがあります。この場合、両者の労働条件に差をつけるのは違法と判断される恐れがあります。企業側はそれを回避するために、エリア正社員の雇用を減らし、現場を非正規社員だけで回すようになるかもしれません。つまり今回の改正が、結果的に非正規雇用の拡大を後押しする可能性もあります」

正社員待遇を手に入れる方法はほかにもある。今回の改正では、非正規社員が有期契約を更新した場合、通算5年超で無期契約に転換できる「5年ルール」が追加された。無期転換しても正社員になるわけではないが、就業規則によっては、正社員と同等の待遇を手に入れられる可能性が出てくる。

たとえば、正社員の就業規則に「住宅手当2万円」という規定がある会社の場合。無期契約への転換時に「住宅手当は有期契約社員時代と同じく1万円」と合意し、正社員と差をつけられたとしよう。それでも、「住宅手当2万円」を要求できる場合がある。無期契約社員の就業規則を用意していない会社では、無期契約社員には正社員の就業規則が適用され、就業規則より悪い条件での合意は無効となるからだ。

もっとも、実際には、5年ルールには抜け道もある。原則、有期契約と次の有期契約のあいだに6カ月以上の空白期間があると、空白期間前の有期契約は通算契約期間から外される(クーリング期間)。つまり間に6カ月以上の無契約期間をうまく挟めば、5年ルールが有名無実化してしまう。

「人材交流のため、グループ会社内で連携して非正規社員の同意のもと、他のグループ会社に転籍させて全く異なる業務につけることで結果的にクーリング期間が発生することは脱法的な運用とまではいいづらい。これを利用する企業も出てくるでしょう」(向井氏)

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