2013年5月24日(金)

肉を焼くときの最適な温度とは?

dancyu 2011年10月号

文・大石勝太

「冷蔵庫に鶏肉があるから焼いてみて」

ある日、僕が密かに「師匠」と呼んでいる肉焼き名人の自宅に遊びに行き、肉を焼くことについての話をしていたら、突然、こう言われた。

冷蔵庫から鶏肉を取り出す。常温になるまで置いておき、フライパンを火にかけて焼こうとしたら、「それじゃダメだ!」。

え、なんで? まだ焼いてもいないのに。

「その状態じゃおいしく焼けないよ。君は鶏の表面を触って常温になったと判断したようだけど、肉の中の温度はまだ低い。表面は焼けても中にうまく火が入らないよ。鶏肉を切って確かめてごらん」

言われるままに、鶏肉を真ん中からカットして触ってみると、肉の中心、特に厚みのある部分の中心は少し冷たい。

「料理本などのレシピにも、よく『肉は常温に戻してから焼く』と書いてあるから、冷蔵庫から出してすぐの冷たい状態のまま焼く人は少なくなったようだけど、素人は最適な状態より低い温度を『常温』と思ってしまうことが多いね」

師匠は、鶏肉をしばらく置いた後、「これくらいが常温だよ」と言った。

肉を触るとひんやりした感じはないし、柔らかくなっているような感覚だ。それまで自分がイメージしていた「常温」の状態に比べ、肉の緊張がほぐれている感じ。

「これくらいの状態で焼かないと、中まで火が通りにくいし、表面をカリッとさせて中をジューシーに仕上げる、といったイメージ通りにすることもできない」

われわれ素人は、焼き方に気を取られ、うまく焼けなかったときにはフライパンのせいにしたりするが、しかし、実は焼く前に勝負が決まっていたのだ。

「牛肉でも豚肉でも同じこと。特に大きな塊や厚みがある肉の場合は、常温に戻すことが大切だね。ま、君がうまく焼けないのは焼き方にも問題があると思うけど……」

実際に焼いてみて、途中で金串を刺して唇の下に当ててみるといい、という。これはプロが肉の焼き具合を確かめるときに用いる方法だが、「まだ冷たい肉と常温に戻した肉を焼いて、それぞれ焼いている途中に金串で中の温度の変化を確認してみるとよくわかるよ」と師匠。

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大石 勝太