とはいえ、痛くも痒くもない傷あとだ。商品を買ってくれる人が本当にいるのか。傷あとは化粧品でも隠せるのではないか……そんな諸々の迷いが消えたのは、グループインタビューに集まったお客さんの話を聞いてからだ。自分がケガしてから考えたこととまったく同じことを言われたという。

「夏の手足の露出が増える時期、小さな傷あと1つでも、他人の視線を感じるって言うんです。エステやネイルサロンに行って、『どうしたんですか?』と聞かれて説明するのは面倒だし、心理的にも傷つく。冬は厚着で見えないけど、翌年の夏はまた気になる……そう聞いて、肌質感というか、生身感でピッとくるものがありました」

特に女性が、同じ女性からの視線を気にすることがわかってきた。

「女性の方って、同性のことを結構よく見てるじゃないですか。電車に乗ってて、他の女性のひざを見て『あ、汚あー』とか。だから、逆に自分が見られてるんじゃないかと思うらしい」(江口さん)

もちろん、これですぐさま商品化とはいかない。

「1回、視野をガーッと広げるんですね。何で傷あとが残るのかという人体のメカニズム。本人の行動のせいで傷あとが残ってしまう、といった人的な背景。人が行動を起こす際の背景にある心理状態は何か、傷あとが見える夏だけ気になり、見えない冬には気にならないのはなぜか、等々」(江口さん)

個人のミクロな体験を出発点に、あらゆるマクロの情報を集め、徹底して検証する。すると……。

「いろんな商品に関わりましたが、突然、すべての要素がガチッと1本の線になるときがあるんです。死ぬほど考えた揚げ句、『もういいわ』と諦めかけた途端、アイデアがピュッと出たり。お風呂に入っているときや、通勤途中でボーッとしているとき、『あっ』とひらめいたことをiPhoneにメモすることもあります」

今回も、その商品特性とニーズが一直線につながったのだ。