名画贋作のエピソードは古今東西、いろいろとありますが、マスコミで大きな話題となったのは2006年、芸術選奨受賞を巡っての日本人洋画家Wさんとイタリア人画家Sさんとの対立でした。この話は1通の投書がきっかけでマスコミに大きく取り上げられ、連日、テレビのワイドショーの話題となり、ローマ在住のSさんのアトリエに日本のマスコミが殺到して、大騒ぎになりました。贋作が世間に出回る場合の多くは亡くなってしまっているアーティストの作品が多いのですが、この時にはWさんとSさんの作品をテレビ画面上で合成してみたり、分析してみたりして、けっこう長い間、話題になったと記憶しています。このケースの場合、構図を見る限り、どちらかが見て真似したとしか思えないほど酷似していました。

『芸術とスキャンダルの間―戦後美術事件史』(講談社現代新書)。贋作や盗難といったアートの「裏側」に光を当てた本。
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『芸術とスキャンダルの間―戦後美術事件史』(講談社現代新書)。贋作や盗難といったアートの「裏側」に光を当てた本。

アーティストの多くはなかなか自分のアトリエに見ず知らずの人を招き入れません。アトリエ訪問を許されるというのは、アーティストが心を開いている状態です。Wさんの場合、ローマのSさんのアトリエ訪問の折に、作品に感動したということで写真撮影を許されていました。この写真を元にして新たな作品を描いたわけです。それは知り合いだった2人の友情の裏切り行為だと私は強く思います。そしてSさんの知らない極東の日本でWさんの描いた同じ構図の作品は売れ、国が授与する大きな賞を受賞しました。この件は、贋作という問題とは別の大きな問題提起もしています。それは海外市場では通用しない、国内にしか流通しない作品が日本にあるということ。そして、国や美術業界の権威がそうした、いわばドメスティックな作品を支持している現状がある、ということです。

昨年、奈良美智さんの作品の贋作が、オークションのカタログに掲載されるという事件が起きました。奈良さんの所属する小山登美夫ギャラリーの小山氏が気付き、オークション会社に連絡したものの、カタログはすでに世界中に配布されてしまっていた、というケースです。オークションへ出品されることは差し止めされたのですが、それで解決したわけではありません。もし仮に、世界規模の詐欺団がいるとして、巷に出回ってしまったカタログを使って、近い将来、偽物の奈良さんの作品が本物の作品であるかのように、騙して商売する可能性がないとは言えないのです。

確かに、作品にはサインが入っていても、目の前の作品が本物かどうかは迷うことがあると思います。人気テレビ番組の「開運!何でも鑑定団」でも、依頼主は価値があるものと思って番組に登場しますが、実は評価額が低くてがっかり、というのを視聴者は喜んで見ているわけで、真贋というのはなかなか手強いものです。それでも骨董品と違い、現代アート作品の場合は、本人が生きていることが多く、その場で「それは私が描いたもの」とすぐ判明しますし、アーティストが写真等によって作品管理をしているので安心です。