これは何も飲食店や小売店だけの話ではなく、他の業種でも代金を銀行振り込みにせずに現金で決済すれば、領収書でも発行しない限り、そのやり取りの痕跡を辿るのが難しく、不正の温床になりやすくなる。そうしたことを未然に防ぐことに、政府は日ごろから頭を痛めているわけだ。

とはいえ店主にしてみれば、「現金払いで受け取れるに越したことはない」というのが本音のはずだ。それというのも、クレジットカードで決済する場合、決済額の数%がカード会社の手数料として差し引かれるからである。

それでも多くの店がクレジットカードの加盟店になるのは、カードが使えることで、「現金の持ち合わせがないから買えない」という人が買い控えするのを防げる、つまり、機会損失を防止する狙いがあるのだ。

最後に会計士の立場から一言付け加えさせてもらえるのなら、やはりカード決済や銀行振り込みの活用などできちんとデータを残しておくことは大切だ。特に小売業など現金を扱う業種では、従業員が出来心で売り上げを誤魔化して現金をポケットに入れてしまうような不正がありえる。それを未然に防ぐための有効手段になるからである。

フランスと同じように日本でも消費税率の引き上げが予定されているが、将来的に15%、20%程度と上がっていけば、税逃れのインセンティブ(誘因)が働きやすくなり、フランスのように、現金決済に上限が設けられることになるかもしれない。ちなみに、スペインやイタリアはフランスと同じような動きを示しているそうだ。

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)
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