田原総一朗が見た山口絵理子の素顔

山口さんは、突破力がある人だ。彼女の行く手には、これまで多くの壁が立ちはだかってきた。たとえば小学校で徹底的にいじめられたり、柔道に打ち込んでいたころは男子選手にこてんぱんにされている。ムスリムが多いバングラデシュでは、女性ということで相手にされなかったり、ビジネスパートナーに騙されて工場ごと逃げられたこともあった。

これらの壁を前にしたとき、普通の人なら戦意を失って、自分が傷つかない位置に逃げ込むだろう。しかし、山口さんはあえて前に進むことを選んで、壁を突破していった。

途上国への支援を行う国際機関で働いていたとき、「支援が本当に届いているのかわからない」といって、いきなりバングラデシュに飛んだそうだ。現場を自分の目で見たいという行動力は、ジャーナリスト顔負けである。いったい小さな体のどこにそんなパワーがあるのかと驚かされるばかりだ。

自分を大きく見せようとしないところも山口さんの魅力の1つだ。ゼロから何かを立ち上げた人の中には、自分の実績を自慢げに語る人が少なくない。しかし、彼女は「たいしたことはしていない。私なんてまだまだです」と、さらっと語る。

数年前にも山口さんとお会いしたことがあるが、謙虚で飾らない姿勢は当時も同じだった。対談後、以前と変わっていないことを指摘したら、「あはは、私って成長してないのかも」と笑っていた。この天性の明るさが、壁を突破する原動力になっているのだろう。

残念ながら日本には女性経営者がまだ少ない。山口さんのような若い女性起業家がもっと現れたら、日本の経済や社会は元気になるはずだ。後に続く人たちのロールモデルとして、これからも注目していきたい。

マザーハウス社長 山口絵理子
1981年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、バングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程修了。2006年、24歳のとき、マザーハウスを設立。同社代表取締役兼デザイナー。バングラデシュ産のジュート(黄麻)やレザーをつかったバッグ、ネパール産のシルク、コットンを用いた洋服などを生産・販売している。Young Global Leader 2008、Social Entrepreneur of the Year in Japan 2010グランプリ受賞。著書に『裸でも生きる』など。
田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。活字と放送の両メディアで評論活動を続けている。『塀の上を走れ』『人を惹きつける新しいリーダーの条件』など著書多数。
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
【関連記事】
20億円の取引より1万5000円のバッグを売る喜び
メディアの裏のウラを見抜くカギ -ジャーナリスト 田原総一朗
田原総一朗「『第二の敗戦』に一致団結して立ち向かおう」
田原総一朗が薦める必読の企業・経済小説(1)
米日韓が「エース級」人材を投入するミャンマー市場