迷ったら別の山に乗り換える

40代後半は働く人として、1番脂が乗る年ごろだ。まさしく“働きざかり”である。山登りを始めて早い人で10年。プロとして順調に開花し、仕事が面白くてたまらないという人もいるだろう。でも、そういう人ばかりではない。まだ迷いが出る時期でもあるのだ。

今あなたが45歳だとしよう。腹決めして、専門の山を登っていたものの、「どうもこの山は自分に向いていない」と思い始めた。では、どうしたらよいか。迷わず、別の山に乗り換えればいいのだ。1つの仕事は20年やり続けると能力のピークに到達する。45歳から別の山に登り始めたとしても、20年後は65歳。まだまだ現役年齢だ。

そうは言っても、新しいキャリアの追求になかなか踏み切れない人がいる。理由を聞くと「収入が減るのが怖い」という。今はそれなりに一人前と認められているから、年収800万円もらっている。「これがまったく別の仕事に移って一からやり始めると、半減してしまうだろう」という危惧である。現実はそうなのだろうが、それは単なる思い込みにすぎないかもしれない。

こういう方法を考えてみてはどうだろう。無駄な出費を切り詰め、自分や家族にとって本当に必要な収入の額を計算してみるのだ。収入が増えると増えた分使い、生活レベルを上げてしまうのが人間の性である。これまでの生活で無駄に増えた分を削ぎ落とすことを考えれば、年収600万円でも可能という答えが出るかもしれない。

あとの200万円分を車やマンションを売り払って確保するのか、それとも妻がパートに出て補うのかはあなたと家族の問題である。「新しい仕事にチャレンジしてものにしたい。うまくいけば、定年退職後もこれで稼げる。男子一生の賭けなんだ」と真剣に相談すれば、納得してくれる妻も多いはずだ。

45歳を過ぎたら、転職先などないと思うのも早計である。転職する必要は必ずしもなくて、あなたが目指す新たな山は社内にあるかもしれない。企業は生き物であり、常に変化している。さらに、最近はM&Aの時代である。流通がプライベートブランドでモノづくりを行い、メーカーは自社の販売店を持つようになった。どんな会社であっても、いつ何時、どんな能力を持った人が必要になるとも限らないのである。

社内でそういう道(山)を発見するには1つコツがある。「自分はこういう仕事をしていきたい」と、キャリアに関する自己イメージを周囲に発信し続けておくのだ。こうしておけば、意外なところからも含めて、さまざまな誘いの声がかかる可能性が高くなる。

もし、あなたが「45歳を過ぎてしまったものの、自分らしいキャリアの構築という面では自信がない。プロとしての山登りも中途半端だけど仕方がない」と思っているのであれば、こんな生き方もある。プロ中のプロたちのサポート役に徹するのである。自分が先頭に立って輝くことができないとすれば、自分は黒子に徹し、誰かを輝かせてあげるのだ。

企業価値を上げたり、競争力の源泉を開発したりする花形の仕事ではないが、それでも会社に不可欠の重要な仕事だ。年下の上司の未熟なところをさりげなくカバーし、部下育成や仕事の相談役としての役割を積極的に果たす。この場合は、専門力ではなく基礎力、なかでも対人能力をもう一度磨き上げておく必要があるだろう。