約半世紀に亘って軍部を敵対視してきた彼女が、軍関係者との関係改善を模索し始めたという現実路線への転換は、国内では衝撃的事実として報じられると同時に、現実的な政権運営能力、2015年以降の国家の統治像を示す必要に迫られているスーチー女史ならびにNLDにとっては当然の方針転換と言えるだろう。

スーチー氏に残された時間はあと2年

中国企業とミャンマー軍部関係企業が開発を進める銅山開発に絡んだ地元住民と中国企業・軍部系企業との紛争に関し、政府の調査委員会の委員長であるスーチー女史が、事業の継続を発表したことが波紋を呼んでいる。同紛争では、鉱山開発に反対する地元住民や僧侶たちが連日座り込みをしたため、警察治安部隊がそれを強制排除、約50人の負傷者が出ていた。

委員会が事業の継続を決定したことの説明のため現地に入りしたスーチー女史に対し、住民は怒号を浴びせかけるなど、彼女に対する失望感が広がっている。この問題に関し、スーチー女史は、銅山開発は国家の発展にとって必要なものであり、本開発事業に関わる外国企業との契約を破棄することは、ミャンマーに対する外国からの信頼を傷つけ、政府が進めている外国投資誘致に悪影響が出るという趣旨のことを述べた。このような発言は、今までのスーチー女史からは考えられないものだ。なんといっきに現実路線へ方針転換したことか。驚きである。

スーチー女史が、2015年の選挙を展望し、軍との友好関係を構築し、自身が大統領になった場合の国家統治の形を模索していることは理解するに容易である。やはり、今のミャンマーは、対外的には民主化の成果がアピールされているとは言え、きれいごとだけでは秩序ある国家統治はできないという現実があるのだろう。軍部対アウンサンスーチーという単純な対立構図から、軍部との友好関係を前提としたスーチー政権誕生後の国家統治の形が模索され始めたのである。

現時点において、スーチー女史の国内のおける政治手腕は全くの未知数である。確かに、一国会議員として、もしくは野党として、NLDが圧倒的に議会マイノリティである現状では、具体的な成果を残すことは簡単ではないのであろう。しかし、総選挙後の国家統治の形を示し、政権能力を示すためには、軍部批判と民主化のスローガンだけでは、今や国民の支持は得られない。だからこそ、NLDはシャドーキャビネットを構想し、軍部との関係も含めた政権奪取後の国家運営の形を国民の前に提示するときが来ているのである。このことを誰よりも理解しているのはスーチー女史である。だからこそ、彼女は、現実路線へいっきに舵を切り直したのである。残された時間は、あと2年である。