TOPIC-2 手帳は「夢」と出合う

前回、1990年代までの「手帳術」関連書籍では、夢を広げていくことの重要性が語られ、また「人生を変える手帳術」といった文言が出てくる一方で、夢を実現し、人生を変えることを可能にする具体的な「手帳術」が示されることはなかったと述べました。ただこれは、「手帳」という言葉をタイトルに含まない書籍まで見ていくと、管見の限りでは1冊だけ例外を見つけることができます。

それは1995年に出版された、フランクリン・エクセレンス インク監修/サイビズ編集部編『フランクリン・システム』という書籍です。これは現在「フランクリン・プランナー」として売られている手帳の前身である「デイ・プランナー」の解説本です。

この「デイ・プランナー」は「時間管理のための時間管理」ではなく、「『将来のための』時間管理」という考え方を基本に据えているといいます(13p)。また別の箇所では「ユーザー一人一人が自分自身の中で明確化した価値観、その価値観実現のための時間管理ツール」だとも述べられます(15p)。では将来のための、価値観実現のための時間管理とはどのようなものなのでしょうか。

「デイ・プランナー」の新しさは、人生や夢に向き合うことを、手帳のメインコンテンツとして組み込み、「手帳術」に落とし込んだことにあります。具体的には「価値観/目標」というページがあり、「価値観」のページでは「『価値観』=『将来、自分がこうなっていたい』という像」を書き出し、それに優先順位をつける作業が促されます(『フランクリン・システム』74p)。次に「目標」のページでは「『目標』=期限を決めることで具体化する」という観点から、書き出された価値観について、「長期目標」をまず設定し、そのために必要な中期目標を優先度と期限とともに書き出します。そしてこれらを参照して、日々何を行うかを決定していくことが促されています(66、75p)。

しかしながら、目標を描くことが難しいという場合もありえます。「デイ・プランナー」のセミナーでも、自分の目標や価値観を考える部分にさしかかると多くの人が考え込むと述べられています(152-153p)。この当時の他の「手帳術」関連書籍では、その場合へのフォローがありませんでしたが、『フランクリン・システム』では、どんな卑近なことでも「思っているイメージをそのままズバリ、言葉にしてみる」(155p)、特に「できるだけ具体的な形容」(160p)を付け加えて目標を身近に、リアリティのあるものにしていくといったアドバイスが提示されています。

このような、設定した目標と照らし合わせて日々の生活を管理するという志向は、アメリカ独立宣言の起草者であり、100ドル紙幣にも印刷されているベンジャミン・フランクリンに由来しています。フランクリンは自作の手帳に節制、沈黙、規律等の13の徳目を記し、毎日それが達成できたかどうかをチェックしていたといいます(20-21p)。「デイ・プランナー」の使い方を習得するためには、このフランクリンの考え方を「システム化」した思考体系「フランクリン・システム」をよく理解する必要があるとされています。