カリスマ経営者と聞いて、すぐに何人かの顔が思い浮かぶという方が多いだろう。なかには「わが社の経営者がカリスマだったら……」と思う人もいるはず。しかし、時に経営者のカリスマ性が企業リスクと捉えられることもあるのをご存じだろうか。

会社経営に影響を及ぼすカリスマリスク
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会社経営に影響を及ぼすカリスマリスク

企業のリスクにはさまざまなものがあるが、その一つに「事業のリスク」がある。事業リスクとは、事業継続が危険にさらされる可能性、もしくはその要因のことだ。

また、企業会計が成立する大前提に「継続企業の公準」がある。いったん設立したら、企業は継続するものということが会計の前提となっているのだ。そして、この継続性を脅かすものはいろいろあって、業績や資金繰りの悪化などが挙げられる。

売り上げダウンやコストアップによる業績悪化は損益計算書(P/L)に影響する。売掛金が回収不能になったり、金利上昇で債務負担が重くなったりした場合には、資金繰りが悪化して、キャッシュフロー計算書(C/S)に悪影響が及ぶ。会社にとって資金繰りは非常に重要で、黒字であっても資金繰りが悪化すれば倒産することだってあるのだ。

不正経理や法令違反も事業継続を脅かしかねない。これらを防ぐために効果的と考えられているのが「内部統制」だ。また、原発による風評被害も事業の継続を危うくする突発的事項だし、貸金業者が大きな打撃を受けた最高裁判決による過払い金の返還というルールの変更も事業継続を妨げる特殊事情といえる。

そうしたリスクのなかで特異なのが「カリスマリスク」である。たとえば永守重信氏が率いる日本電産の有価証券報告書には、「事業等のリスク」の項目がいくつか挙げられている。主要顧客への集中、コンピュータ産業への依存、販売価格下落といったリスク項目が並んでいるなかで、目を引くのが「当社社長である永守重信(氏)への依存」という項目だ。「NIDEC(日本電産)の継続的な成功は主に当社の創業者であり社長兼CEOの永守重信氏の能力と手腕に依存しております。永守氏は積極的にNIDECの経営に携わり、特に企業買収活動を始めとした戦略的意思決定に関与しております。永守氏への依存を軽減するためデザインされた経営構造の確立過程で、永守氏の突然の離脱があった場合、そのことがNIDECの事業、経営成績、財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります」

そういえば今年の1月に米国アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)が病気休養に入ったニュースが世界を駆け巡ったことを思い出す。「iPhone」「iPad」などを立ち上げたジョブズCEOが一時とはいえ経営から離れることで、先行きに不透明感が漂うのではと懸念されて同社の株価が急落した。それだけカリスマ経営者と呼ばれる人たちの存在感は大きい。

事業を継続していく過程においては、経営者の「代」をまたぐことが不可避になる。そして、企業にはトップが代わっても安定した経営を続けることが求められる。後継者の育成は、事業継続という点におけるリスクヘッジでもあるのだ。

しかし、カリスマ経営者の後継となると、かなりハードルが高い。カリスマといわれるほどの才覚と人格を持ち合わせる人は多くないし、同様の力を持つ後継者がいたとしても、カリスマ性を発揮しやすい環境かどうか、という問題もある。

カリスマ経営者が企業を育てる。そしてある程度、企業が成長したら実務が任せられる後継者を育て、カリスマ経営者は「名ばかりカリスマ」となり、権限を委譲する。そして、機を見て勇退というのが、理想的なシナリオではないだろうか。