西海岸のリベラルさを象徴。
IT業界に広がる「ZEN」

カリフォルニア州アナハイムにある「メナージュ・ホテル」の「Zen Room」。経営会議やパーティーにも使われているという。

集中力と創造性がものをいうIT業界には、禅の文化が驚くほど浸透している。社員のメンタルヘルスのために、禅室を設けている会社も少なくない。

IT業界に詳しいデューク大学のビベック・ワドワー教授は「インストラクターを呼び、禅を基にした瞑想法を指導する会社は多い」という。シリコンバレーでの起業経験を持ち、研究のため世界を飛び回るワドワー教授自身も、1日2回、蓮華座を組み、精神修養に励む。

そもそも西海岸は、リベラルで斬新な気風で知られる。マイクロソフトやインテルをはじめ、現在でもフェイスブックやリンクトインなどのIT企業が西海岸で生まれ続けているのは偶然ではない。

禅室を備えたホテルやマンションも多い。ディズニーランド観光でしばしば利用されるメナージュ・ホテル(カリフォルニア州アナハイム)には、宿泊客が会議やパーティーで利用できる大きな禅室がある。木製の床や滝のインテリアなど、自然を生かしたつくりだ。同ホテルのコービン・サウンダース営業部長は、「利用客は、大企業や地元企業など、多岐にわたる。会議からカクテルパーティーまで、用途もさまざま。禅室は、滝の流れる音や雰囲気が心地よく、最も人気の高い会議室の1つだ」と話す。

米国には、チベット仏教を含め、約1200万人の仏教徒がいる。ニューヨーク州北部の「道真寺」には、3万人の信者が集う。秋葉老師は「禅文化は、全米にひたひたと広がっている。日本人は誇りを持っていい」と自信たっぷりに語る。12年8月には、サンフランシスコ近郊に、奈良の唐招提寺をモデルにした禅寺を建て始める予定だという。総敷地は12万坪。全米最大にして唯一となる木造の本格的な禅寺である。ジョブズ氏の禅の精神は、アメリカの文化にしっかりと引き継がれていくことだろう。

※すべて雑誌掲載当時

スティーブ・ジョブズ
1955~2011年。76年にアップルを創業。「Apple II」の開発でパソコンの時代を拓いたが、85年に社外から招いた役員と対立し事実上追放される。ベンチャー経営などを経て、96年に業績不振のアップルに復帰。「iMac」「iPod」「iPhone」と革新的な製品により、同社を時価総額で世界最大の企業に導いた。
(写真=若杉憲司、ロイター/AFLO)
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