一辺が10センチほどの箱型の鉄の固まりに、7ミリ角のネオジム磁石がぴたりと張りついている。実験用の材料を用意してくれた研究員から、「どうぞ、磁石を外してみてください」と促され、挑戦してみた。指の先でつまんで、ぎゅっと引っ張り上げようとしたが、予想以上に強力だ。1回のトライでは外すことができず、改めて力を入れ直して、やっと鉄の固まりから引き離すことができた。

磁石の新たな製法を開発しているベンチャー企業、インターメタリックス(京都市)の開発現場で、磁石に触れてその強さを実感として理解することができた。

ネオジム磁石の市場規模(出典:富士経済)※2010年は見込み、2011年以降は予測ベース(※ネオジム焼結磁石)
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ネオジム磁石の市場規模(出典:富士経済)※2010年は見込み、2011年以降は予測ベース(※ネオジム焼結磁石)

ネオジム磁石は、携帯電話の振動音用バイブレータやハードディスク駆動装置など、電子機器に使うモーター用に広く普及している。車でもハイブリッド車からEVへ、また再生可能な自然エネルギーとして有力視される風力発電用大型モーターをはじめ、今後ますます用途が拡大する見通しである。

このネオジム磁石を世界に先駆けて発明し、今もさらなる技術革新に挑んでいる人物がいる。インターメタリックスの社長を務める佐川眞人で、60代半ばを超えて新たな技術への探求心にまるで衰えを見せない。

佐川は富士通研究所、住友特殊金属(現日立金属)と歩いてネオジム磁石を開発し、82年8月、この成果をもとに基本特許を申請したが、これが世界で最初の特許出願になった。

その後、ネオジム磁石の商品化にも成功して自らベンチャーを立ち上げたが、やがてある問題が浮上して日本は真綿で首を絞められるような状態に置かれ始めた。ハイテク産業に欠かせないレアアースの資源問題であり、とりわけ中国一国に偏在するジスプロシウムは、価格の高騰といい、量の確保といい、重い課題を突きつけられるようになった。