終身雇用を支えているのは年功制度である。年功制度が企業にもたらすメリットは2つある。1つは総体的に人件費を抑えられること。若く実力ある社員に対し、将来の継続的な雇用や賃金アップを約束する代わりに現状の賃金を安く抑えるという仕組みだ。もう1つのメリットは、技術の継承がスムーズに行われることである。年長社員は雇用の継続が保証されることによって、安心して若手社員に自分の技術を継承できるようになる。成果主義的な賃金体系であれば、技術を継承した有能な若手社員が自分に取って代わる労働力となりうるため、年長社員は技術継承に消極的になるだろう。

すべての仕事関係者を「仲間」とする日本の企業文化が年功制度を基盤に持つ終身雇用を継続させてきた。従業員を「敵」とみなす米国型の労働観は、日本には馴染まない。日本では今後も正社員の終身雇用が続くことが理想だと考えている。

しかし、終身雇用にも弱点がある。それは長期雇用で従業員の平均年齢が上昇し、それに伴い固定費が増加することだ。従業員が高齢化すれば、組織の活気も失われることになりかねない。従って終身雇用維持のために、数十年に一度、若返りをはかる必要がある。50代以上の社員に退職後の生活保証を与えることを条件として人員整理を行い、若手社員へ権限を委譲するというのも1つの方法だ。

人員整理は終身雇用に反し、組織が沈滞するのではないか、という懸念もあろう。しかし、2001年の松下電器産業(現パナソニック)の例を見れば、その懸念は払拭される。当時、同社では大量の希望退職者が出たが、私のゼミ生が関係者にヒアリングを行ったところ、会社の雰囲気は悪くなっていなかった。退職者はその後、十分な生活保証を与えられ、若手社員たちは権限を委譲されたために、いきいきと働いていたのである。

現在は100年に一度の危機とされる。非正規社員の解雇による小幅な雇用調整では対応できないかもしれぬ。危機を逆手に取り、思い切った若返りを図るところが出てくるかもしれない。それが将来の終身雇用の維持・強化にも繋がるだろう。

(構成=プレジデント編集部)