北上次郎さんが今回紹介した本

●とても他人事とは思えないリアリズム
『二人静』盛田隆二 光文社
「目の前の問題を打開するために、何から手をつけていくのか。誰が敵で、誰を説き伏せなければならないのか。そうしたディテールがとても具体的」。恋人の娘との関係が深まるメールのやりとりがあたたかい。

●いいことも、悪いことも、いつかつながる
『スコーレNo.4』宮下奈都 光文社文庫
「前向きに生きることがなかなか信じられない時代ですね。こんなふうに一生終わってしまうのかと思ってしまう。いまの生活にちょっと迷っているときに読むと、昨日とはちがった風景が確実に見えてくる」。

●時空を超えて、人生の岐路に戻る旅
『流星ワゴン』重松清 講談社文庫
5年前に交通事故死した父子が乗るふしぎなワゴン車。彼らとともに旅に同行するのは、余命いくばくもないはずの父親。しかも自分と同じ年だった。「ま、いいやと通り過ぎてしまった場が人生の岐路でした」。

●目的もなく遊ぶ豊かさ
『遠まわりして、遊びに行こう』花形みつる 理論社
大学生の青年が「遊び塾」の講師のアルバイトをはじめる。自由奔放な小学生を相手に奮闘しながら青年は成長。「子ども時代のあのときの風の匂い、空の色、胸の鼓動がすごい勢いで蘇ってくる」。

●誰もがつらい、だからそばにいる
『晴天の迷いクジラ』窪美澄 新潮社
「主人公の3人は精神的に追い詰められている。その背景も丹念に描かれていますが、ストーリー以上に引き付けられる力があります。読み終わったときにそれを感じるでしょう」。

北上次郎(きたがみ・じろう)
1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年4月に椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊して発行人を務める。創刊当時から書評を担当して、ペンネームの北上次郎名で『冒険小説論──100年の変遷』(日本推理作家協会賞受賞作全集)、『ベストミステリー大全』など多くの著作を発表する。趣味は、競馬。
(構成=与那原恵 撮影=kuma*)
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