イトカワを離れた「はやぶさ」は、順調にいけば2年後に地球へ帰還するはずだった。しかしそれまでの2年間の航海と着陸で、姿勢を制御するために必要なリアクションホイールはすでに2基が壊れ、重ねて発生した燃料漏れによって正しい姿勢を維持できなくなっていた。

そして着陸成功から約半月後、「はやぶさ」と地球との通信は完全に途絶えることになる。

18の専門班をチームにまとめる

(JAXA=画像提供)

「はやぶさ」が大気圏で燃え尽き、カプセルを落としてからしばらく後のことだ。神奈川県相模原市にあるJAXAの展示室には、カプセルを一目見ようと2000人が行列を作った。プロジェクトマネージャーの川口淳一郎教授が姿を現すと、子供たちは憧れの表情を浮かべて彼の周りに集まった。人々が「はやぶさ」に関心を抱いたのは、小惑星の「砂」を世界で初めて持ち帰った、というニュース性だけが理由ではなかったはずだ。イトカワからの帰還に際して、機体は幾度か深刻なトラブルに見舞われた。05年12月の通信途絶、そして09年のイオンエンジンの全停止……。しかしプロジェクトチームは「はやぶさ」に残された力を絞り出すようにして、地球への帰還を果たした。多くの人たちはその経緯に触れ、「はやぶさ」に思いを寄せたに違いなかった。彼らはなぜ、繰り返し訪れる絶望的な困難を乗り越えることができたのだろうか。

「電波を失った時は、さすがに無理かな、という気持ちが芽生えました」と久保田教授は話す。

「はやぶさ」からの通信が途絶えた後、チームが弱気にならなかったわけではない。

1人、また1人と人が減り、多い時は10人ほどいた運用室には、当番のスタッフだけが残された。返事のない信号を送り続けるしかない部屋の様子は、やはりどこか寂しさに覆われていたという。