人事のトップは韓国人とインド人

0年代後半にオープン取引制度を導入したときのことです。従来の日本の商慣習を破り、取引先にかかわらず、取引条件を原則すべて同じにし、リベートを撤廃しました。他社が手をつけない、当時にすれば流通の大改革ですが、私は30代でその責任者を任されました。

当然、営業の現場から「そんなことをすれば売り上げが下がる!」と猛反発がありました。リベートを撤廃すれば、商談の切り札が奪われます。それまで、担当者が交渉に失敗すれば「上司をつれてこい!」と言われ、上司の裁量でリベートの金額も上がっていたのです。しかしそのような余計な仕事をなくし、本来の業務に集中することが改革の狙いでした。

現場にはきつい状況ですが、営業スキルで勝負するように追い込まれ、どんどん鍛えられました。筋トレに痛みはつきものです。また「すべての取引において公平」と堂々と示すことで、取引先からの信頼にもつながりました。誠実さと透明性が信頼を生み、長期的にはプラスに働くことが実感できた経験です。

いま、多くの企業がダイバーシティに取り組んでいますが、当社には長い歴史で培ったカルチャーや働き方があり、それも時代に合わせて変化しています。

例えば、当社の人材開発のトップは韓国人、採用のトップはインド人です。彼らが日本法人の人材面を担っています。

国籍、性別、年齢、宗教などが多様な組織で必要なのは、バイアスのないものの見方や誠実さ、透明性であり、最終的にすべてを決めるボスはお客さまだという考え方です。

これは生理用品を開発する部署で起きた一例ですが、ある男性社員が、製品の裏面に何か模様をつけたらどうか、と提案しました。子どもが紙にシールを貼って楽しんでいる様子から思いついたというのです。同じ部署の女性たちは、最初はこぞって反対しました。生理用品は無地の白いものが当たり前という固定観念があったからです。しかしその後、男性社員の意見を受け入れ、消費者調査をすることに決めました。

さっそく試作品をつくってユーザー調査したところ、「模様つきがいい」という回答が多くありました。男性社員のアイデアがお客さまに支持され、模様をつけることになったのです。この事例のように、固定観念を認め、個々の異なるアイデアを受け入れ合うことで、新しいイノベーションが生まれます。

よりよい商品をつくるという目的は同じでも、育った環境、性別、年齢によって意見が衝突するのは自然なことです。ですから当社では、相手の意見を否定しない、お互いに耳を傾け合う、といったカルチャーを育み、基本的な訓練を社員は受けます。そうした努力がなければ、いつの間にかバイアスや不信感がはびこり、組織は機能しなくなるのです。

人間は相手から尊重され、尊敬され、信頼されたときに最もモチベーションが高まるというのが私の持論です。上司も部下から尊敬されたいものです。部下よりも多くの情報を握ることで地位を維持しても意味がありません。情報をできる限りオープンにし、それでも部下より優れているのが本当にカッコいい上司です。誠実さと透明性で信頼を勝ちとり、尊敬される働き方こそがグローバル時代には不可欠なのです。

※すべて雑誌掲載当時

P&Gジャパン元社長 桐山一憲
1962年、大阪府生まれ。明星高校、同志社大学商学部卒。85年P&Gファー・イースト・インク(現P&Gジャパン)入社。2002年、営業統括本部長、06年ヴァイスプレジデントを経て、07年9月~12年6月社長。
(伊田欣司=構成 水野真澄=撮影)
【関連記事】
「神戸から仙台へ」なぜいち早く紙オムツ・生理用品を運べたか -P&Gジャパン
資生堂「グローバル人事革命」の最先端
毎年5%成長 P&G「世界的ヒット」連発のカギ
グローバル化のお手本「味の素」300基幹人材の選択法
100億円「ファブリーズ」マーケティングの新方程式