心理学的に、より注目すべきは(2)の暴露原理です。暴露原理とは、人間には利己主義者を見分ける能力がきわめて強力に備わっているということです。

利己主義者は((1)の互恵不能原理によって)周囲から排除されるのを防ぐため、表面を取り繕う行動に出ます。「この人の力を利用できれば得だ」と計算した相手の前では、愛想よく振る舞い、自分はいい人だとアピールします。逆に自分にとって利益がないと判断した相手には冷たい態度をとります。損得計算に基づく姑息な「態度」の使い分け。見せかけの利他性です。

ところが、いくら表面をごまかしても、利己主義者であることはすぐバレてしまいます。

悪者を見破る能力を進化させてきた人間

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図2

進化心理学の考え方によると、イヌは嗅覚を高度に発達させることで生き残ってきました。コウモリは超音波を聴き分ける能力を身につけたものが淘汰を免れました。同様に、社会的な存在である人間の場合は「悪者を見破る能力」を、進化の過程で異常に発達させてきたのです。

さまざまな人間が蠢く社会のなかで、「見破り能力」を発達させられなかった人は誰かに騙され、生きのびることができませんでした。今日生きている私たちはみな、騙されない能力を発達させることに成功した人々の子孫であり、「悪者」を瞬時に検知する遺伝子を強力に受け継いでいるのです。このことは以下の実験からも証明できます。

まず「ウェイソンの実験」と「コスミデスの実験」です。図2の2問のクイズは、両方とも論理構造は全く同じで難易度にも差はありません。しかし、正答率は「数字・アルファベットの問題」より「未成年者の飲酒に関する問題」のほうが格段に高いのです。