建築環境を総合評価する
CASBEEというシステム

「暑くても我慢」「寒くても我慢」「暗くても我慢」。省エネといえば、我慢と同義語というイメージもある。「しかし、そうしたストレスの溜まる取り組み方では省エネ生活は長続きしない」と秋元教授は指摘する。では、どうすれば快適に暮らしながら環境に与える負荷を削減することができるのか。「CASBEE(キャスビー)」に注目してみよう。

「CASBEEは正式には『建築環境総合性能評価システム』といい、住宅やビル、工場など建物の環境性能を総合的に評価する手法です。建物内部における生活アメニティの向上を評価する『環境品質』と、建物外部の環境に与える負の側面を評価する『環境負荷』の2つの軸を比較し、S(素晴らしい)からC(劣る)までの5段階で格付けします」

環境品質は建物内の光熱環境がどの程度快適で暮らしやすいものになっているか、環境負荷は廃棄物や温室効果ガスなどをどれだけ外部に排出しているかなどで計算されるが、それだけではない。音環境や景観といった、エネルギー以外で住み心地に大きな影響を与える要素も評価に加えられる。また、建物の建設から解体までにトータルで排出される「ライフサイクルCO2」も算出できるので、「その建物に住むことで、どれだけ地球環境に負荷をかけ続けるか」という長いスパンでの評価も可能となっている。

CASBEEによる建物の評価は「CASBEE建築評価員」の資格を持った一級建築士が行うが、手軽に自宅の評価をしてみたい人のため、ホームページで「CASBEE健康チェックリスト」も公開されている。これは主に「健康」や「安全」をキーワードに作られたソフトで、50の質問に答えるだけで全国レベルでのランキングや、住環境で改善したほうがよい点のアドバイスなどを見ることができる。CASBEEの開発・運用にも携わっている秋元教授は、「環境に配慮することはもちろん、より健康な生活を送るための『気づきのツール』として使ってほしい」と話す。

住む人が建物の
能力を生かせるように

住まいの環境性能を上げること。それは環境への負荷を減らすだけにとどまらず、住む人の健康や安全の向上にも寄与すると秋元教授は語る。

「建物の断熱性能を上げると、冷えやかゆみなどはもちろん、アレルギー性疾患の改善率がアップするという調査報告があります。ただ光熱費を削減するために建物を改修するのと、健康の維持・増進効果も考慮して改修する場合では、後者のほうが罹患率が低下し医療費を減らすことになるので、工事費用を短期間で回収できるというデータもあるのです。地球環境のため、子どもや孫の世代のためと将来のことを見据えるのは大切ですが、環境性能の向上は『今、その家で暮らしている自分自身の健康』にも大きな影響があると考え、家づくりや自宅の改修に取り組んでいただきたいですね」

理想的なエコ生活は、建物自体の省エネ化を進めるだけでなく、住む人が建物の能力を十分に生かした暮らしができるようにすることが大切だ。家と人、その両輪がかみ合ったときにこそ、環境にも、健康にも良い結果が生まれるのであって、人が我慢を強いられる省エネにはやはり無理がある、と秋元教授は繰り返す。

今年は国の「省エネ基準」が改正され、非住宅については4月1日から、住宅については10月1日から施行される予定だ。従来の基準は主に建物の構造や外壁などの断熱性能を評価していたのに対し、改正基準では建物内で使われる冷暖房、給湯、換気、照明といった設備機器のエネルギー消費量も含まれることになったのだ。

今回改正された省エネ基準はあくまでも「努力義務」だが、政府は2020年には新築住宅・非住宅の省エネ基準「適合義務化」を目指している。いずれ、省エネ基準を満たさないと「家が建てられない」という時代がやってくるかもしれないということだ。秋元教授は語る。

「今、家庭用燃料電池にしろ、太陽光発電にしろ、新たなエネルギーの導入については国や自治体が補助金を支給するなどして普及を後押ししています。そうした制度を積極的に活用し、省エネと環境負荷削減に貢献しながら、快適な生活、社会を実現してほしいですね。持続可能性と豊かな暮らしのバランスがとれた世界をつくり上げなければならない。私たちはそういう時代に生きているのですし、その方向に足を踏み出さない限り、何も始まらないと思います」

住宅の環境性能を高めることは、
住む人の健康の維持・増進ともつながる重要なテーマです

秋元孝之●あきもと・たかし / 芝浦工業大学工学部教授
1963年東京都生まれ。88年早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了。カリフォルニア大学バークレー校環境計画研究所に留学。清水建設勤務、関東学院大学工学部教授を経て現職。工学博士・一級建築士。