基幹業務にも浸透するクラウド。
選ぶ基準はどこに──

それでは今後、日本のおけるクラウドサービスは、どのような進展を見せるのか。これについても、情報通信白書の「クラウドサービス利用の日米比較」が示唆を与えてくれる。まずクラウドサービスの利用実績について、平成23年度、日本の回答者の33.0%が「利用している/利用していた」と応えているのに対して、米国の割合は64.6%。およそ2倍の開きがある。ただし、平成22年度の差が2.5倍(日本26.1%、米国64.0%)、平成21年度の差が3.8倍(日本14.8%、米国56.2%)であったことを考えれば、この差は急速に縮まってきているといっていい。

現状、具体的な差として表れているのは、利用分野の違いである。下の図のとおり、すでに「情報系システム」の領域では、日米の間でクラウドサービスの利用に大きな差は見られない。開きがあるのは、例えば財務会計や物流管理、生産管理など、いわゆる「基幹系システム」での利用だ。

ただ、日米の利用実績の差が縮まってきていることを考えれば、これは「基幹系システム」の領域こそ、日本のクラウドサービスにおける成長分野である、ととらえるのが正しいだろう。実際、IT関連のリサーチやコンサルティングを手掛けるMM総研がデータセンター事業者への調査を行ったところ、「業務系アウトソーシングが本格化し、クラウド需要が拡大する」という期待の声も上がっている。最前線では基幹系システムへのクラウド活用が加速し始めているわけだ。

企業活動のあらゆる領域に着々と浸透するクラウドサービス。となれば、「うちも、これから本格的にクラウドを」と考える企業の経営トップやIT部門の責任者が思うのは、きっと次のようなことだろう。「ではいったい、どんな基準で、どこのサービスを選んだらいいのか」──。

このたび、そんな声に応える調査がMM総研によって実施された。第1回「ビジネスクラウド総合評価調査」がそれだ。この調査の目的は、企業の情報システム基盤や災害時に継続運用できる社会基盤に適したサービスを選定する新たな視点で、クラウドサービスの実力を客観的に評価すること。クラウドサービスを提供する主要な30社を対象に、「基本性能」「サービス実装」「ネットワーク」「信頼性」「運用サポート」「料金体系」の6分野43項目について評価した。

その結果、「最高水準に項目基準を満たしており、大変優れた価値が認められる」という「AAA」の総合評価を得たサービスは、「Bizホスティング」(NTTコミュニケーションズ)、「IBM SmarterCloud」(日本IBM)、「FGCP/S5」(富士通)、「BIGLOBE クラウドホスティング」(NEC ビッグローブ)、「GMO クラウドPublic / IQcloud」(GMO クラウドPublic / IQcloud)、「KVH IaaS」(KVH)の6つ。従来より、法人向けサービスに注力してきた企業のクラウドサービスが並んだ。

いずれにしても、どのようなクラウドサービスを導入するかは、企業それぞれの事情によって異なる。まずは、トップをはじめとする経営層が導入の目的を明確にする必要があるだろう。コスト削減と一口に言っても、どのレベルを目標とするのかによって手段は変わってくる。さらにクラウドサービスの効果は、すでに述べたように節約だけに留まらない。ビジネスの仕組みやプロセスをイノベーションする力も十分に持っているのだ。本格的な普及期を迎えたいま、すべての企業が「クラウドサービスとどう向き合うか」をあらためて検討するタイミングといえそうだ。

※記事内のグラフの出典は、いずれも「情報通信白書平成24年版」。